殲滅せよ
孤高の地の山脈地帯を抜けると、共和国領土のなだらかな傾斜地帯に出た。
領土と言えど王国に面する寒冷の僻地、下を眺めても、幾つかの小さな集落があるだけだった。
この10数キロ先に、目標となるPMCの施設がある。
その敵領内を俺とオスカーは悠々と飛ぶ。
<とんでもない数の巡航ミサイルがとんでやがる、王国め。
まて……此方に向かってくる航空機らしき反応、2! 王国軍!>
<敵討ちのつもりか、返り討ちにしてやれ! 対空戦闘、開始! >
<2番、ファイア! >
「Mud spike 12o`clock.
アウル1-1、敵レーダーに捕捉された」
「アウル2-1、こちらもレーダー波を捉えた。マグナム」
マグナムというのはあのリボルバー式大口径拳銃ではなく、対レーダーミサイル(ARM)の発射コールだ。 対空ミサイルに対する反撃手段であるARMだが、敵のレーダー波を拾わなければ放てないという弱点がある。
その為、今回のSEAD作戦では俺達二機がわざと敵に姿をさらす、残りの二機が孤高の地の稜線の裏に隠れる。敵がレーダー波を放った瞬間、隠れていた二機が稜線から出て来てARMをぶっ放すという段取りだ。
敵の打ち上げたミサイルの白い尾が、地平線の先に見えた。
しかし、俺達は構わず前進する。
<飛翔体感知! >
<ARMか!? レーダーオフ! >
こちらに迫っていたミサイルがあらぬ方向へと飛んでいった。
敵はARMの接近に気づき、その対抗策としてレーダーを切ったのだ。
これならばARMは目標を見失う、だが、これはジレンマだ。
時速800km以上で飛行するDIG-35は敵がレーダーを切った十数秒で、敵対空ミサイルを捉えられる位置まで移動していた。
この位置までくれば一発数億するARMなんて使わずとも、10分の1以下の値段の無誘導爆弾で始末できる。
機体を緩く加工させ、HUDの中央に敵ミサイルを捉えた。
<敵機、直上! >
「
<くそ馬鹿空軍連中の戦闘機のエアカバーは来ないのか!? うわっ>
爆弾が地上に辿り着き、レーダー車両が爆散した。
ミサイルたちは残っているが、レーダーがなくなれば文鎮でしかない。
他のミサイル陣地が腹をくくってレーダーを起動したが、起動した瞬間、目標を再度とらえたARMの餌食となった。
「アウル2-1、敵レーダー陣地を無力化。
通知する、現在の所、敵の迎撃部隊は確認できない。
我々は残存ミサイル群を攻撃後、帰投する、通信終了」
「了解、良い腕だ」
「そして、良いチームワークだ」
「オスカー、アンタは何もしていないな? 」
「君が何も指示を出さなかったからだ。
なに、弾薬を節約することも大事だ。後で使うかもしれないだろう」
「あとで使うったって……」
敵ミサイルを始末したら残るのは、敵施設だけだ。
野蛮なPMCの施設ならば、さながら悪魔城のような邪悪な要塞に思えるが、実際は廃工場を修繕しただけの柔い建物だった。
こんなものに必要以上に温存ことは無いと思うが……まぁ、傭兵契約では破壊した敵兵器の数だけボーナスがあるのでオスカーの分は、ありがたくいただくとしよう。
既に敵施設は下に見えている。
対空砲火が空に向かって放たれているが、旧式の手動操作タイプのものらしく弾幕は薄く、まるで当たる気配がない。それでも念には念を入れて、高度を高く取り、機体に備えられたターゲットポッドを起動する。
ナイトアウルの時と同じだ。
レーザーを敵施設の煙突部に照準する、運が良ければ、煙突を通り抜けて内部で爆発するかもしれない。
淡々と準備を整えながら、投下するというタイミングで、敵の無線を傍受した。
いや、傍受するというより、敵が語り掛けて来た。
<……よ、よう、王国の友人よ。良い腕をしてるじゃねぇか。
俺はビッグM、あんたらの賞金首だ。
まぁ、待て、聞こえているんだろう?。上に居るアンタ、もしかしてフクロウの旦那じゃないか? >
「ジョン、何故攻撃しないんだい? 」
<攻撃してこないってことは、肯定とみなすぜ。
アンタの名をうち等の宣伝につかったのは、悪かった。
だから、取引しよう。
俺を見逃してくれたら、王国が出している報酬の倍を出すぜ。
なんなら、俺がお偉いさんに掛け合って、アンタを社員にしてやってもいい。
此処だけの話、パイレーツは共和国を見限るかもしれないんだ。こんな泥沼の戦争よりもっと稼げる戦場がある。
アンタは傭兵のプライドがうんたらって言ってたな、分かる。
金と自由、そういうことだよな? >
「……」
<ふっ、交渉成立だな。正直、英雄気取りのアンタは気に喰わなか――>
そいつが何かを言い終える前に、俺が十数秒前に投下していた爆弾が煙突をすり抜けて爆発した。
施設の中には弾薬の備蓄もあったのか、内部から弾けるように建物が破裂した。
少なくとも、中に居たやつらは皆死んだだろう。
「これだから、コロコロ鞍替えするPMCは嫌いだ。
傭兵っていうのは、一度依頼を受けたらやり遂げるんだよ」
俺は独り言を言った後、無線のボタンを押した。
「任務完了、帰投する」
◇
作戦終了後、帰投している時だった。
ターゲットポッドが起動していたままなのに気が付き、それを消そうとした時、偶然カメラが下の集落を捉えた。
小さな集落で一人の男が何かを喚きながら、こちらに向けて何かを向けて来たのだ。
携帯対空ミサイルか、一瞬、緊張が走った。
だが、カメラをズームするとそれがただの猟銃だと気づいた。
あんなものは文字通り鳩撃ちの為に使うモノだ。
自国を焼かれたことで怒りにかられたただの一般市民だろう。
「オスカー、下に注意。民間人だ」
「クク……」
「どうした? 」
「いいや、君はとても甘い男だなと思って。
いいかい、私たちはこの国と戦争をしているのだぞ」
何を分かり切ったことを、俺が疑問を呈そうとした時、オスカーは無線帯域を変えた。
長距離無線、王都作戦本部へ緊急通達する際に使う無線帯だ。
その周波数帯で、オスカーは迫真の声を上げた。
「緊急、緊急!
こちら特務隊所属、エルフィン・オスカー。
現在、民間人集落にて武装した兵を発見、民間人を装った共和国の便衣兵とみられる!
我々は武器を指向されている、直ちに集落に対する攻撃許可を! 」
「お前!? 」
<こちら本部、了解した!
共和国人め、民間人を装うとは!
集落に対する攻撃を許可、殲滅せよ! >
「了解……くくっ、攻撃を開始」
オスカーの機体から、クラスター爆弾が宙に放たれた。
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