侵攻開始


共和国小都市クレセイムから30kmの地点、王国陸軍前線基地。

早朝。


100両を超える戦車と装甲車がところ狭しと並べられていた。

その集団の戦闘に位置する戦車部隊の大隊長は、キューポラから身体を出し、その壮観な眺めを楽しんだ。


「一号車隊長より、各隊へ! 

 総員用意は良いか、送れ! 」


「二号車、合戦用意よし! 」「三号車、異常無し! 」「四号車、総員士気旺盛! 」


返答する部下たちの声は、熱意に満ち溢れていた。

無骨な戦車達すらエンジンが唸りをあげ、今や遅しと待ち構えているようだ。

この戦争の主役は空軍ばかりで、陸軍は冷や飯を食わせれてきたが、ようやく時が来ようとしている。


あとは作戦本部からのGOサインを待つだけだった。

そして、遂に大隊長の元に吉報が届けられた。


「ルクレール作戦、発動! 繰り返す、ルクレール作戦、発動!

 一班より2列縦型隊列で敵地へ突入!

 戦車隊、前へ! 」


いよいよ戦車隊が咆哮を上げ、大地の泥をかきあげながら進みだす。

同時に、砲兵部隊の放った砲弾が、流星群のように空を駆けていった。



共和国領海から30km、共和国小都市クレセイムから100km地点、王国領海。

大型のミサイル巡洋艦を中心とした8隻からなる艦隊が、厳かに鎮座していた。

その旗艦に座る艦長はブリッジの時計と、自身の腕時計を神経質に見比べていた。


「時間だ。


 艦隊司令より各艦へ!

 第一次攻撃まで残り60!  

 引き続き、防空艦は対空見張り厳となせ! 」


「対地戦闘用意!

 本艦はまもなく攻撃を開始する、甲板クルーは退避せよ! 」


ジリリリリと、戦闘を告げるけたたましいベルが艦内に響く。


「対地攻撃、はじめ! 」


「モスキート攻撃はじめ、発射弾数、16発。

 目標地点、ALPHA-ECHO。

 一番から八番管、解放! 」


「発射用意! 」


「一番から八番、てーっ! 」


自艦から、そして周りの僚艦から発射されていくミサイルを艦隊司令は芸術品をみるようにうっとりと眺め、一人こう呟いた。


「終わりだな、共和国人共」



PMC『パイレーツ』。

共和国の元軍人や、元警官を主体とした民間軍事企業だ。

ここまでなら、よくあるPMCと同じ構成だが、パイレーツは元犯罪者や半グレ、更には過激な配信者をも雇っている。

過激な組織だが、意外と共和国内では人気があるのだ。

例の処刑映像といい、良くも悪くもインパクトのあることをするパイレーツは共和国内の一部若者層から人気がある。碌な戦果を出していない正規軍よりも頼りがいがあるらしい。

因みに、例の処刑男はビッグMと自称する男だ。

元犯罪者かつ配信者で、パイレーツの幹部広報官らしい。

俺達が今から狩りに行く相手でもある。


その為に、俺達は今、孤高の地上空を飛んでいる。

ルクレール作戦が開始されても、ここは平常運転で争っている、互いに奪われるわけには行かない土地だからだ。

今の俺達には好都合だった。

これだけ大勢の機体が乱戦していると、レーダーで捉えるのが困難になる。

空戦には巻き込まれないよう、すり鉢状になっている山脈の間をすり抜けながら目的地に向かう。


<マチルダ1より各機、1000ft上昇する>

<後ろだ、振り切れ!>

<テトラ―ク3、機体不調。撤退を望む>

<被弾した、被弾した! >


「またやってるよ」


俺の機体"DIG-35"のコックピットでは、空域中の敵味方の無線が流れる。

これは機体中央部に搭載された新装備、情報収集ポッドによるものだ。

敵の無線を傍受することで、戦術に幅を持たせる意味合いがあるらしい。


「君は此処で戦果を挙げたらしいな」


これは傍受した無線ではなく、今回の僚機、オスカーからの無線だ。

奴の機体はDU-30、DU-27シリーズ最新鋭機だ。


「ああ」


「くく、流石はこの地獄から蜘蛛の糸を掴んだ男、少佐が認めるわけだ。

 実際に空から孤高の地を眺めていると、よりそう思う。

 彼らのほぼ全ては無駄死にだろう? 」


「無駄死に? 建前上は孤高の地は絶対防衛戦略空域の筈だ」


「君は戦っていて、無駄だとは思わなかったのかい?

 いいや、思った筈だ。

 王国も共和国も、此処の戦いで雌雄が決まると思って戦わせてはいない。


 戦っている彼等は哀れだと思う、だが、同情はしないね。

 彼等は君と違って、蜘蛛の糸を掴めなかった人間達だ。

 悲鳴をあげて、もがいている姿は醜い」


<なんでこんな目に、死にたくない! 助けてくれ! >


丁度その時、何処かの誰かの断末魔が響いた。

オスカーの言葉に同意はしなかったが、正直、そう思う。

自分が不幸だからと嘆き、権利を主張する人間、則ち弱い人間は嫌いだ。

分かりづらい貴族風の話し方は気に喰わないが、案外、馬が合うかもしれない。


「こちらアウル2-1、ウェイポイント3を通過

 ウェイポイント4到達直後に、対レーダーミサイルを発射する。

 予定時間、ネクスト05」


「了解した」


クリスチーナからの無線報告で、俺は作戦へと気を戻した。

……そういえば予備の待機部隊、ケッペルらの姿が見えないが。

サボったのか?


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