英雄に
電撃奇襲作戦、『梟の夜』成功の後、王国軍は共和国領土に対する攻撃を本格的に開始した。
当然、共和国は徹底抵抗を宣言し、戦争の領域は一気に拡大した。
そして、俺はというと。
「クーパーさん、身体はそのままで顔をこっちに向けてください」
「こ、こうか?」
「よろしいですわ、梟らしい威厳が出ております!」
「梟らしい威厳ってなんだよ……」
「撮影が終わり次第、記者会見に移ります!」
パシャパシャという騒がしい音と、幾つものシャッターの眩しい光が俺を襲う。
俺は王都の芸術館で、カメラマンと報道陣に囲まれていた。
共和国奇襲作戦を成功させた英雄として。
ただし、成功したとはいえ、機密性の高い任務だったのは変わらず答えられることは少ない。
「敵地を攻撃した際、どのような心境でしたか?」
「平常心に近かったと思うな」
「しかし、共和国は数多もの兵器で待ち構えていたはずです、貴方は如何様にしてそれを潜り抜けたのですか? 」
「ああ、それは……」
「それは禁則事項です、お答えできかねます」
「王国が試作した新型戦闘機を使用したという噂もありますが!? 」
「ええっと」
「禁則事項です、次の質問を」
有難いことに対応に迷うような質問は全て、報道官として同席しているイリス少佐が答えてくれる。
「そろそろ質問終了のお時間です、最後の質問を」
手を挙げたのは、ブランド物のゴテゴテとした腕時計をした気難しそうな中年の男だった。
「はい、王道新聞のものです。
このような困難な任務を祖国の誇りなき傭兵がこなすとは、私には信じられません。
これは傭兵の志願数を上げるためのでっち上げなのでは? 』
会場が水を打ったように静まり返る。
少佐が何か反論しようとしたが、俺はそれを手で制した。
俺がその記者を真っ向から睨みつけると、そいつはあからさまに怯んだ。
「な、なんです、その態度は?
私が何か間違いを言ったか?」
「……傭兵にもプライドがある。
口の聞き方には気をつけろ」
「っ……」
「これにて記者会見を終了します。
尚、今後、不適切な質問をした団体に対しては取材を拒否させていただく可能性がありますので、ご了承を」
少佐が冷たい声で言い放ち、記者会見は静まり返った状態で空気で終わりを迎えた。
まずい、これはあとでお叱りが来るかもしれない。
だが、俺が退室のために席を立った瞬間、パチパチと小さな拍手が起きた。
1人、また1人と拍手に加わり、すぐに会場を飲み込むような割れんばかりの拍手へと化した。
◇
会場を後にして、送迎の車に乗り込もうとする。
たったそれだけの間でも、大勢の軍関係者からの敬礼を受け、握手を申し込まれることすらあった。
車の後ろ座席に乗り込み、ドアを閉めるとようやくと肩の荷がおりた。
「疲れた」
「でも、顔はにやけてるじゃない? 」
「……」
少佐が俺を顔覗き込むように、訪ねてきて思わず顔を背ける。
窓の向こうで、王都の街並みが流れていく。
ビルに付けられた巨大なTVのモニターには『電撃作戦成功』と言う見出しと共に、俺の姿が映し出されていた。
口座には約束された額がしっかり振り込まれていて、暫くの間は俺の名は英雄として知れ渡ることになった。
「かっこいいじゃない?」
「やめて下さい、軍部の広告だかなんだか知らないがやりすぎです」
「でも、落ち込んでいた軍の志願率は上がり、兵士たちの士気も上がっている。
君が世界を変えたのよ」
あまりの持ち上げぶりに、思わず乾いた笑みが出る。
もしかして、この女性は俺のことが好きすぎるんじゃないか?
それを見透かしたように、少佐はあの微笑みを見せる。
「そう考えているのは、私だけじゃないの」
彼女はやたら重厚な書面を手渡してきた。
それを流し読みし、一番最後の署名の所で俺は目を丸くした。
「これは王さ……国王陛下からの……? 」
「そう、今度こそ貴方に当てられた陛下からの勅命。
陛下はあなたの活躍に大変感銘を受けられた」
王は軍隊のやり方は非効率だと、以前から不満を持っていた。
いくら無能たちに強い武器を与えても、壊すばかりでは仕方がないと。
彼は俺の作戦成功を引き合いに、自分の構想を認めさせた。
選りすぐりの先鋭を引き抜き、彼らの最新鋭の武器を与える。
それだけに留まらない、その先鋭たちはある程度の規模の作戦を立案し、それを実行する権限を持つ。
数百年も前、有力な騎士たちが戦争を打開していったのを再現しようと言うのだ。
「王国特殊任務集団、特務隊へようこそ。
貴方が受け入れてくれるからな話だけど」
……。
いや、俺はそこまではーー。
突然、頭痛を伴うような大きな耳鳴りが俺を襲った。
『夢なんて追うな!』
『ジョン、貴方は小市民として生きれば良いのよ』
『挑戦なんてするな!』
『なんで母さんの言うことがーー』
「クーパー? 」
気がつくと、少佐の顔が目の前にあった。
彼女は心配するように、栗色の瞳で俺を覗き込んでいる。
「いや、なんでもないんです。
……無論、全身全霊で受けさせていただきますよ」
「そう、よかった。
君はきっと、王国の歴史に名を残すような人物になる」
俺はその言葉に頷いた。
誰かの記憶にも、誰かの記憶にも残らない、何も成し遂げられない人生なんてごめんだ。
元はと言えば、その為に俺は戦闘機乗りになったのだから。
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