梟の夜作戦(2)
自動操縦を切る。
共和国の都市上空に着いたからだ。
夜中だというのに多くの光が灯っている。
「空から見ると、共和国も王国も大して変わらんな」
そう呟きながら、俺はこの重い機体を爆撃ルートに乗せる。
それと同時にモニターを切り替え、ナイトアウルの暗視カメラでターゲットを捜索する。
拡大されたカメラ画面には都市の姿が、そこを行く人々の姿が映し出される。
此処には数万人の人々が住んでいる。しかし、まだ誰も上空を飛んでいる俺のことに気づいていない。
「罪のない人間の眠りを妨げるつもりはないが……」
誰にも届かない言い訳を述べた時、例の会合が開かれる講堂のような建物を発見した。
攻撃チャンスは一度だけしかない、慎重に機体をコントロールし、爆撃体制にはいる。
照準用のレーザーポインターを照射し、武器格納庫を開く。
ウィンという音がする、武器格納庫が開き、爆弾が外に迫り出しているはずだ。
HUDが投下待機から投下機能に切り替わった。
「
カチャ、爆弾が切り離される音がする。
此処からだ。ここからが本番だ。
この機体のカメラはロック機能の性能が悪い。
何故か機体を僅かに右に傾けなければ、カメラが安定せず、その上で目標に命中するまで操縦桿の上の小さなスティックで照準を合わせなければいけない。
やりにくいことこの上ない。
直撃まで10秒。
「クソ、落ち着けポンコツ」
あと少しで着弾というタイミングで、ロックした筈の照準が小刻みに荒ぶり始めた。
その照準をミリ単位で補正する、グローブの中の手汗が凄い。が、此処で指先を滑らせれば爆弾はあらぬ方向へ、民間人の住む家に飛び込むかもしれない。
そうなれば、名声どころか民間人殺しの戦犯だ。
5秒。
地上からの反応はいまだに一切ない。
3、2、1、着弾。
遂に。
モニターに映し出されていた建物が閃光に包まれ、崩れていった。
暗視カメラを通さなくても、コックピットから目視で真っ赤にもうもうと燃え上がる様子が見て取れた。
爆発から30秒ほど経ったぐらいの時、思い出したかの様に地上から対空砲火が上がる。
だが、やはり彼らは俺の位置を特定できないようで、まるで見当違いのところに打ち上げている。
その曳光弾が夜空を舞う様子を見て、俺は不謹慎ながらも綺麗だと感じた。
その後、俺は自動操縦の切り替え、帰路についた。
◇
深夜3時過ぎ、俺は無事に王都空港へと帰還した。
作戦が終わったからと言っても、ナイトアウルの機密が解除されたわけではない。誰もいない暗闇の空港の中、俺は密かに格納庫の前へと機体を戻した。
「全く、大仕事だったのに出迎えも無しか」
俺はヘルメットを脱ぎながら、一人愚痴をこぼす。
だが、格納庫の扉が開いた時、それが間違いだったということに気づいた。
大勢の兵士達が駐機スポットを囲むように直陸不動で立っていたのだ。
(普通の兵士の装備じゃない、何事だ? )
俺はおっかなびっくり彼らの間に機体を止め、コックピットを開いた。
その瞬間、大きな号令が響いた。
「総員、傾注! 」
「栄えある王国に勝利をもたらした模範的同志に敬礼! 」
「敬礼! 」
彼等は一糸乱れぬ動きで最敬礼をする。信じられない、彼らが敬礼を送っているのは俺だ。敵に見つかりかけた時よりも、俺は焦った。落ち着きなくきょろきょろと周りを見渡すと、中央のキャットウォークにイリス少佐を見つけた。
彼女は俺の視線に気づくと、柔和な微笑みを浮かべながらフランクな敬礼を投げて来た。
勘弁してくれ、このサプライズパーティは
だが、嫌いという訳でも無い。
今後ともよろしくの意味を込めて、俺は彼女に敬礼を投げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます