梟の夜作戦(1)
王都から離れるにつれて、眼下の光は少なくなっていき、やがて光が見えなくなってきた。こうなると視界に頼った飛行はできず、ナイトアウルのナビゲーションシステムに頼るしかない。車のナビと違い情報がリアルタイムで更新されないという欠点もあるが、こっちは自動操縦がある。
その為、俺が操縦桿を握るのは爆撃するその時だけだ。
快適な空の旅だが、モニターに表示された航路図によると、俺は共和国の領空に差し掛かろうとしているようだ。
もう既に危険地帯だ。
今日この時まで、戦火は孤高の地に限定されているとはいえ、両国ともに国境沿いはかなり警戒している。
その境目を……今、超えたらしい。
「ふぅ……」
思わず息が漏れる。
上空から下を見下ろしたが、国境沿いには小さな集落があるばかりで殆ど明かりは見えなかった。逆に仮に下にミサイルがあったとしても分からない。
一つ言えるのは、今現在、敵の警戒網の上を飛んでいるのにも関わらず、ナイトアウルが爆発炎上していないということは敵はこちらを探知していないということだ。
しかし、恐ろしい。
ナイトアウルにはレーダーが積まれていないのだ。
れーだーがないというのは、対地攻撃を担う攻撃機にとって珍しいことではない。
仮に航空支援中や戦略爆撃中に敵に狙われたら、無線で味方戦闘機に援護を求めればいいからだ。
だが、このステルス機とこの隠密作戦はそうすることはできない。
文字通り、完全ステルスを遂行するしかない。
今、飛行しているルートも一応敵の基地や集落を避けたような航路を設定している為、レーダーに映らなければ見つかることはないはずだが……。
「……!? 」
進行方向右側の空、緑色の光が見えた。
空に浮かぶ緑色の何か、馬鹿でかいカメムシでなければ、それは航空機の翼端灯だ。
二つ浮かんでいる、恐らく二機ペアの戦闘機だ。
見つかったのか? 俺の背筋に冷や汗が流れる。
しかし、行動を起こす前に連中の様子を見る。
戦闘機とらしき編隊は進路を変えずに飛び続けている、俺を見つけたからではなく通常の哨戒任務のようだ。
だが、まずい。
このままの進路だと、T字ですれ違う。
この機体には二発の爆弾しか積まれていない。機関砲すらない。
いや、あったところで、こいつの劣悪な機動性では先手をとってもコテンパンにやられるだろう。
避けて迂回……も駄目だ。燃料計は既に半分になろうとしている、基地に帰る分の燃料が無くなる。
ならば、降下して地面スレスレに逃げるということも考えたが、ナビによるとこの下は小さな集落、音を聞いた住民から通報されるかもしれない。
共和国全土は警戒態勢に入り、当然、会合も中止、そうなれば作戦は失敗だ。
そうこうしている間にも、緑の光はより鮮明になり、暗闇にうっすらと戦闘機のフォルムが見て取れた。
俺は腹を括った。
俺は薄い光を発しているディスプレイを手で覆った。
あとはもう、『何もしない』
敵戦闘機は右から近づき、俺の正面を飛び去る。
距離は数百m。
「……」
意味は無いが、息をころす。
そして、敵戦闘機はそのまま左へと通り過ぎていった。
大きなため息をつき、シートに沈み込んだ。
敵のパイロットがこちらを見逃すという敵の無能に賭けた。
しかし、これが最適解だった。
此処は敵の領空内、まさか此処に敵がいるわけがないという思い込みがあるのだろう。
気を取り直し、モニターを確認する。
ターゲットまで、残り10数分。
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