【1章エピローグ】栄光への船出
「君ならそう言ってくれると信じてたよ」
少佐は俺に黒地に金色でSTS(Special Tacticals Squadron)と刺繍されているワッペンを手渡した。
ふむ、悪くないデザインだ。
「貴方の特権証よ。
運転手、彼の家へ」
「家? 」
車は王都の一等地を進んでいく。
一体何処へ向かうというのか。
というのも、俺は特定の住まいを持っておらず、所属基地の宿舎を点々としていたからだ。
「王国は貴方の貢献と、さらなる活躍を期待して一等級住居を無償で提供することを決めたの」
「一等級って言ったら、閣僚とか軍の一部の佐官に配られるものでしょう? 」
なんと。あのトイレすら自室にないカビだらけの宿舎とはさよならバイバイするようだ。
「そう、それから厳密に言うと君はこれから准佐官となる。
特務隊は王国軍とは独立した集団とはいえ、一応便宜上ね。だから、君と私に上下関係はなくなった」
「お近づきになれたということか。
どうだろう、親睦も兼ねて食事でも」
「手が早いのね、でも、嫌いじゃないかも。
ただ、君が先に親睦を深めないといけない人がいるみたいよ」
見当が付かない、誰のことだ?
車が立派な住宅の前に止まる。
此処が俺の家となるらしい。
が、闇の中、わずかな玄関灯の下に小柄な人影が見えた。
「誰だ?」
「君の同居人よ。
さぁ、どちらにしても君はお家に帰らないと」
同居人?
何か煙に巻かれた気持ちだが、仕方なく俺は車から降りて新居へと向かう。
その人影は、18歳ぐらいの少女のだった。
シルクのようにしなやかな金髪を、赤いリボンで右にサイドテールにまとめている。
しかし、顔立ちは可愛らしいが、表情が曇っているように見える。
周囲が暗いからそう見えるだけか?
いや、それより気になるのは彼女の服装だ。
白と黒を基調にした昔ながらのドレスのような服装。
ああ、これはあれだ。召使い、使用人、奴隷、何と言うんだったか……?
「お初にお目にかかります、クーパー様。
私は王国政府から派遣され、貴方様の専属メイドとなりましたアイカで御座います」
俺は天を仰いだ。
全く、この国の倫理観は一体どうなっているんだ。
専属メイド、そんなものは中世の時代かフィクションの世界の話だろう?
俺の当惑をよそに、そのアイカという少女は消えありそうな声で、深々と頭を下げたのだった。
「今後、誠意を持ってご奉仕させていただきます」
栄光への船出は、どうやら波乱万丈のようだった。
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