第10話

「到着したよ兄さん。」


「ここかぁ…」


2人は村から結構離れた洞窟の前に立っていた。後ろには部下が死体を持って待機している。


「皆さん死体持ってもらって申し訳ないのですが、少し外で待機していてください。」


少女の方がそう告げると、2人で中に入っていく。


「…暗すぎ。」


「今、ライト出すから待って。」


少女がカバンを漁り、中からフラッシュライトをだす。

電源をつけると、先の方から光が出て辺りを照らす。


「お、明るい明るい。」


「兄さんも、持ってるはずだよね。」


「野営地に置いてきた。」


「はぁ、まったく…」


「ごめんて…それより、なんで俺ら2人だけで来たんだ?」


「それは、何かあったとしても2人だけの方が対処しやすいからだよ。」


「へぇ…確かに。」


2人は奥へと進んでいく。

まもなくするうちに、ひらけた場所に出る。


「広くなったたな…」


「そうだね…じゃあここが…」


少女は先の方を照らす。


「…これだよな。」


「…うん。」


そこには大きな円状の模様が描かれ、そこの中心には何かの骨と、赤黒く光る球体が置かれていた。


「あれが目的のやつ?」


「正確にはこれから復活させたものが目的のものだけど……それより、昔のものでここまで魔術式が綺麗に保たれてるのは凄い。少し魔力流してみるね。」


「おう、気をつけろよ。」


「うん。」


少女はその模様が描かれた地面に手をつけると、目を瞑る。するとその模様が手の置いたところか赤く不気味に光り、模様上に広がっていく。


「…うん、大丈夫そう。」


「よし、じゃあ外の奴ら呼ぶか?」


「うん、そうしよう。」


少女の頷きに、少年は腰のホルダーから無線機を取り出す。


「入ってきていいぞ。急いでこいよ。」


そう告げると返答を待たず、無線機をホルダーにしまう。


「まさか、ここまで簡単に事が運ぶなんてな。」


「まぁ、早く終わるに越したことはないと思うよ。」


そう言いつつ、2人は部下の到着を待つのであった。



「…ホロア教…」


聞きなれない単語に疑問を浮かべるリヨリア。


「…まさか、本当にホロア教だったとはな。」


「え、何か知ってるんですか?」


「あぁ、だけど説明は後でいいか。」


「え…あ、はい。」


アーサーは立ち上がる。その瞳はじっとフードの集団を見つめる。


「戦おうってなら俺も手伝うぜ。」


「ん?」


すると突然、横からレオがそんなことを言いながら、背負っていた弓を構える。


「後方支援ならできるぜ。」


「…ありがたい。じゃあよろしく頼む。」


「え、2人であの集団を相手するんですか…」


「そうだな…まぁ、安心しろ。一対多での戦闘も訓練されてるから。」


「俺も弓だったら狩りで使い慣れてるから大丈夫。」


「でも…じゃ、じゃあボクもお手伝いしましょうか?銃持ってきてるので後方支援できます。」


「いや、大丈夫だ。」


リヨリアの提案を断るアーサー。


「リヨリア、お前は待機しててくれ。俺とレオで何とかなるだろうけど、念の為にな。それにリヨリアが戦闘に参加するとして、だれがルノスを守る?」


「ッ…」


アーサーの言葉にリヨリアはルノスの方を見る。ルノスは恐怖に震え、表情は恐怖と言わんばかりに歪んでいた。


「…分かりました。でも、2人も気をつけてください。」


「任せろ。騎士として自分もこの村の奴らも守りきってやる。」


「俺もなるべく気をつけはする。」


「あ、そうだレオ。」


「ん?」


「お前は2人のこと守るのが最優先事項な。」


「…分かってる。」


「それならよし。んじゃ、そういう事だから。」


「はい…」


「じゃあ、やるかレオ。」


「おう、アーサー。」


アーサーは剣を抜き、レオは弓を構える。


「まずは銃のやつから無力化する。できるか?」


「まぁ、それぐらいなら…」


レオは狙いを定め、矢を放つ。

その矢は真っ直ぐと飛んでいき、その集団の銃を持った人物の一人の手に刺さる。


「イッタ!」


その人物は手に刺さった拍子に銃を落とす。


「余裕だっつうの。」


「ナイス。」


それを合図とし、アーサーは走り出す。


「……ッ!?おい、なんか来てるぞ!」


「ほ、ホントだ。」


その集団がアーサーが近づいて来てることに気づく。


(1人は無力化したみたいなもんだから次は…)


「もう1人の銃野郎!」


「くっ、アイツに向かって撃て!」


真ん中の人物が支持すると、もう1人の銃を持った人物が構える。


「し、死ねぇ!」


「遅い!」


その人物が引き金を引こうとした瞬間、アーサーは地面を蹴り、残りの距離を縮める。そして、剣の柄の先で銃を持った人物のみぞおちを突く。

兵団』の兵士だけど?」


「り、リビルド兵団!?」


その名を聞き、一歩後退るその集団。


「くっ、なんでここにリビルドの奴らが…」


「なんだ、怖気付いたかホロア教。」


「くそっ、ふざけるなあ!」


と集団の1人がアーサーに近づき剣を振りかぶる。

がその剣はアーサーに届くことはなかった。

アーサーはその剣を少しの動作で避け、剣の柄をその人物の首に叩きつける。


「ガッ…」


その人物はそのまま倒れる。


「…はぁ、大人しく投降してくんない?」


「くっ…」


(…アーサーさん、対人でも強い。)


それを見ていたリヨリアは、アーサーに希望を見出す。


「……くっ、誰が投降するか!俺たちのせいで計画がダメになってたまるかよ!」


「計画?お前ら今度は何を企んでる。」


「うるせぇ!!テメエら行くぞ!全員でかかればなんてことねえ!行くぞ!」


1人の言葉で残りの4人がアーサーに向かって襲いかかる。

するとその集団の前に1本の矢が突き刺さる。その矢に一同は立ち止まる。


「足止めしたぞー!」


「ナイス足止め!!」


アーサーはその足止めされた集団に突っ込んでいき、流れるように残りの4人を剣の柄だけで無力化する。


「ガッ…」


最後の人物も倒れると、アーサーは剣を鞘に納める。


「おーわりっと…」


辺りを見渡し、倒れ込む男とそれを心配する女に駆け寄る。


「大丈夫そうっすか?」


「あ、あの!!夫を…夫を助けてください!」


「ちょ、落ち着け。傷…見せてもらっていいすか?」


「は、はい。」


女は男を仰向けにする。

男の抑える腹部からは大量の血が溢れ出ており、地面には紅い血溜まりができていた。


「…この村の医者は?」


「スネクさんという方が週に2回、医者として見に来てくれます。」


「スネクって、あのライフボーダーの?」


「はい…」


「そんな奴が…で今日は?」


「来る日じゃないです。」


「マジか……とりあえず応急処置だ。上級治癒ポーションは持ってるから…誰か包帯持ってないか!」


村の広場にいる全員に呼びかけるアーサー。すると、村の住人は自分のカバンなど確かめたり、近くにいる者に聞きあったりし始める。


「包帯…それなら。」


リヨリアもカバンの中を探し始める。


「あった。レオさん、ルノスさん、アーサーさんの所に行きましょう。」


「え、あ、おう。」


「…う、うん。」


3人はアーサーのもとへ向かう。


「アーサーさん!」


「ん?リヨリア?」


「あの、これどうぞ。」


リヨリアはアーサーに包帯を手渡す。


「お、助かる!レオ、応急処置してる間、そいつ見ててくれ。」


と、アーサーは倒れ込む集団の中で唯一意識があり、手に矢が刺さっている人物を指さす。


「わかった。」


直ぐさまレオはその人物に弓を構える。


「動くな。動いたらこの矢を放つ。」


「ぐっ…」


「よし、大丈夫そうだな。」


レオとその人物を確認したアーサーはリヨリアから受け取った包帯と持っていた上級治癒ポーションで直ぐさま応急処置をはじめる。


そして数分が経ち。アーサーは応急処置を完了する。


「よし、応急処置完了!」


「あ、ありがとうございます!」


「応急処置だから、スネクが来たら必ずみせろ。」


「はい。本当にありがとうございます」


「よし、じゃあ次は…」


レオの見る人物の元へと向かう。


「サンキュー、レオ。もういいぞ。」


「わかった。」


アーサーの言葉にレオは弓をおろす。


「さてと…尋問の時間のはじまりはじまり〜。」


「…何も話さない。」


「ふーん、仲間も全員やられて、片手も使い物にならない…そんな状況で?」


「それでもだ!私達のせいでこの計画を失敗する訳には行かない!」


「ふーん、なにがなんでも話さないと…なら」


アーサーは腰の剣の柄に手をかける。


「ッ!…アーサーさん!」


そのアーサーの行動に気づいたリヨリアがアーサーの名を呼ぶ。


「ん?なんか用か?」


「…その剣を握って何しようとしてるんですか。」


「ん?それは勿論こうするため。」


アーサーは勢いよく剣を抜くと、柄をその人物の首に叩きつける。その人物は意識をなくし倒れる。


「捕虜にして、動きを待つ。拷問すると思ったのなら安心しろ、うちの兵団では拷問は禁止されてる。それに、俺自体も拷問は趣味じゃない。」


「…なら良かったです。」


安堵するリヨリア。


「よし、とりあえず後始末するか。コイツら縛るのをレオと俺でやるか。リヨリアはルノスを連れてあの人を家まで運ぶの手伝ってやれ。」


「分かりました。」


「俺もやんのかよ…」


それぞれ事態の後始末に動く。

村には未だ不安が残っていた。



「モリビト様、準備が完了いたしました。」


「ありがとうございます。術を発動させますので下がっていてください。」


「承知しました。」


頭を下げ、部下一同が少女の後ろに下がる。

少女の目の前には上に大量の死体が転がる模様入った地面が広がる。


「これ発動すんのか?」


後ろから少女に声をかける少年。


「大丈夫、術式に欠陥はなかったからしっかり発動するよ。」


「なら大丈夫か。」


少女から距離をとる少年。


「…よし、発動します。」


少女は意を決して、地面の模様に触れる。

そこから赤黒い光が模様を伝っていく。


(…あれ、ホロア教とモリビトだよね…)


そして、そんな奇妙な光景を隠れて遠くから様子をうかがう人物が1人。


「これは遊んでる場合じゃないかも。」


その光景を見るや直ぐさま出口へとかけ出す。


「ヤバいことになりそう。」



「アーサーさん、送ってきました。」


「サンキューな2人共。こっちも宿屋の地下が借りれたから、そこにアイツら置いてきたところ。」


それぞれの仕事を終え、広場に再度集まるリヨリア、ルノス、アーサーの3人。


「え、アソコって地下あったんですか。」


「まぁ、見た感じ物置みたいな場所だったけど。」


「物置…って、そういえばレオさんは?」


「レオなら村長に報告して帰るって言ってたぞ。」


「あ、 もうそんな時間ですか。そろそろボクたちも帰らなきゃですね。ルノスさん。」


「…うん。」


「あー、その事でちょっといいか?」


「はい?」


「…今日は、この村の宿に止まっててくれ。」


「え?」


アーサーの言葉に疑問の表情を浮かべるリヨリア。


「なんでですか?」


「それも諸々込みで話したい…だから帰るのは待ってくれ。お金は俺負担でいい…だから頼む!」


「そこまで言うなら…ルノスさんはそれで大丈夫ですか?」


首を縦に振るルノス。


「ではそうしましょうか。あ 、自分の宿泊代は自分で出しまし、ルノスさんの分も私が出します。」


「え、あ、分かった。」


3人は宿へと向かう。

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少女(男)と異セカイとコールヘブン 星月シグレ @Sigure3

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