第6話

「はぁ、失敗したなぁ…」


夕暮れの森の中を、迷宮での出来事を悔やみつつトボトボと歩くリヨリア。


(今回はアーサー君が丁度よく来たから良かったけど、もし来てなかったら死んでた、反省しないと…)


「…はぁ、やっぱり生きるって難しいです…師匠。」


空を仰ぎ、一言呟く。


「……ん?」


だが、突然鼻を刺すような臭いがリヨリアの意識を地上に戻す。


「この匂い…血?しかも獣人の女の子の…」


錆っぽい臭いに、一瞬で血液の臭いだと判断するだけでなく、その臭いに混じった臭いで性別、年齢、種族、人だと言うことまでも判断する。

普通だったら出来ないことだが、リヨリアは血液をも食事にする種族『ヴァンパイア族』の一人。血液の匂いでの、人間か否かや、性別、種族などの嗅ぎ分けは造作もない。


(方向はボクの住処の方から、臭いが強い…てことは出血して時間が経ってる。急がないと。)


リヨリアは冷静に状況を分析し、駆け出す。



「はぁ…疲れたぁ。」


トボトボと森の中を歩くアーサー。


「にしても…こんな所にヴァンパイアがいるのは意外だったな。見た目は、12歳…あたりってところか…」


(…しっかりしてたなぁ…やっぱりアレで実年齢100とかだったり…)


「……ないな。100もいってればブラッドミノタウロスなんて余裕だろうし…」


思い浮かんだ考えを自ら否定する。

その時


「…ッ」


アーサーは何かを感じとり、素早く剣を抜く。


カンッ!


何かが当たる音。

その後背後からすぐさま聞こえてくる着地音。


「…危ねぇな。」


アーサーは後ろを向く。

そこにはフード付きのマントのフードを深く被る、小柄な人物が1人。


「…」


小柄な人物は、無言のままナイフを構え続ける。


「お前、暗殺者だよな?俺に何の用だ?」


「…」


「…無言のままか…んじゃ、俺から1つアドバイス。俺を追うなら、まず殺気を完全に消して、心臓を止めることだな。まぁ、殺気上手く消せてたと思うけど少し残ってたし、心臓に関しては止めない限り、心音が聞こえてくるから無理に等しいな。ちなみに、お前が俺が村を出てからつけてたのは知ってる。心音でバレたてたぞガハハ!!」


「…」


「なんか喋れよ。こっちは変な笑い方でボケてやったのに。」


「…」


「…そうですか。無言のままですか。ならもういいです。」


ため息をつき、剣を構え直す。

そんなアーサーに反応し、より深い体勢で構えるフードの人物。


「…無理やりでも話させてやるよ。」


その言葉とともに、アーサーは地を蹴る。



(匂いが濃くなってきた。てことは近い!)


リヨリアは森の中で濃くなる血の匂いに、周囲を見渡す。


(どこ…どこに。)


だが、いくら見渡しても見当たらない。


(見当たらない…こういう時は血の匂いに集中…)


リヨリアは目を瞑り、鼻に意識を集中させる。

先よりも匂いが明確になり、頭の中で匂いが形になったてイメージされる。


「…あっちだ。」


匂いのする場所を特定し、その場所に足早に向かう。


「ここらへんだから……いた!」


リヨリアは倒れてる少女を発見し、駆け寄る。

背中までまで伸びた茶髪、特徴的な狐の耳としっぽの少女。


「大丈夫?!」


少女の身体を少し起こし、声をかける。


「…」


が、少女は目を閉じたまま、苦しそうな表情を浮かべていた。


(…酷い傷…それにこの身体…痩せ細ってる。)


少女の腕を少し持ち上げ確認する。

少し力を入れれば折れそうな程に細い腕。


(これは、栄養失調の可能性もある…とりあえず…)


リヨリアは腰のポーチを探る。


「…あった。」


ポーチから取り出されたのは初級ポーション。

蓋を外し、少女に少しづつ飲ませる。

そうしていると、傷がどんどん治っていく。


「ふぅ、とりあえずある程度は処置完了……」


治療がある程度完了した少女をまじまじと見るリヨリア。


「…連れて帰ろう。」


そう呟き、少女を背負う。


「…よし、帰ろ。」


テントに向かって歩き出す。

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