第5話
「そろそろ帰ろ。」
放課後の教室。1人読書をしていた少年『ナギサ』は本をバッグにしまい、教室を出る。
廊下を歩き、階段を降り、玄関へと向かう。
「あれ、ナギサ。」
「ん?」
突然、廊下の途中で後ろから名前を呼ばれ、振り返る。
そこには、ポニーテールにされた黒髪に黄色の瞳のジャージ姿の少女。
いつもひとりぼっちのナギサに唯一話しかけてくれる少女。
ナギサの幼稚園からの幼なじみ。
「やぁ…」
「帰り?」
「う、うん。本が読み終わったから、帰ろうかなって…」
「…そっか…」
「そ、そっちは」
「ん、私?私は部活の休憩中。」
と目を逸らしながら、会話をするナギサ。
「ねぇ…ナギサ…」
「ん?な、何?」
「えっと…そのぉ…ナギサの読んでる本貸してほしいなって……」
「…え、僕の?この本?ラノベだよ。」
「いいの。ナギサがいつも面白そうに読んでるから気になって。」
「そ、そう…じゃあ、はい。」
ナギサは本を手渡す。
少女はそれを嬉しそうに受け取る。
「ありがとう!」
「うん。」
その少女の嬉しそうな顔を見て、少し微笑むナギサ。
「あ、そろそろ部活戻らなきゃ。じゃあねナギサ。」
「じゃ、じゃあ」
少女は廊下を走っていく。
ナギサも振り返り、玄関へと向かおうと1歩を踏み出す。
その時
「ナギサ!」
「え…」
名前を呼ばれ振り返る。
そこには先の少女がいた。
「これ読んだら、絶対返すから!絶対!」
「え…あ、うん…分かった。」
「んじゃ…またね!」
「…う、うん。じゃあ…」
少女は再度廊下の奥へと走っていく。
ナギサはその少女の去っていく姿に背を向ける。
そうして、ナギサは学校を後にするのだった。
そして、ナギサという人物は帰宅途中にトラックに引かれこの世を去ることは、この後すぐの出来事だった。
◆
「ん…うぅ…」
目が覚めるリヨリア。
「お、起きたか。」
と話しかけられ完全に意識が覚醒するリヨリア。
それと同時にあることに気づく。
「…おぶられてる。」
「ん?あ、このまま迷宮内で目覚めるの待つのも良かったんだけど、流石に疲れたから早く宿に帰りたくてな、勝手におんぶさせてもらった。」
「…そ、そうですか…そのおぶってもらってるのに失礼ですが、名前とかって…」
「俺?俺はアーサー・ペドラ。」
「アーサーさんですか…ボクはリヨリアです。」
「リヨリアか……いい名前だな。」
「あ、ありがとうございます。」
目を横に逸らすリヨリア。
「あ、あの…そろそろ下ろしてもらっても大丈夫です。」
「あ、分かった。」
アーサーは立ち止まり膝を曲げ、リヨリアが降りやすいようにする。
「ありがとうございます。」
リヨリアはそっとアーサーの背中からそっと下りる。
「…歩けるか?」
「全然歩けます。ありがとうございます。」
「そうか、良かった。んじゃ、これ返してとこうか。」
と、アーサーは肩にかけてあった狙撃銃をリヨリアに返す。
「ありがとうございます。」
「あ、あと何個かあるからちょっと待ってな。」
「え?」
アーサーはリヨリアに待てと言うと、手を横に伸ばす。
そして
「『開け…亜空間倉庫』」
その言葉と共に伸ばされた手の前の空間が歪む。そして、アーサーはそこに手を突っ込み、小袋を取り出す。
「はいこれ。」
「あ、ありがとうございます…」
「ん?なんでそんなキョトンとしてんだ?」
「え、いやその…亜空間魔術の倉庫なんて初めて見たので…」
「そうなのか?多分店とかでも材料とか在庫保管のために使われてると思うけど…あ、でも流石に客の見えるところにはないか。」
「多分そうだと思います。一度も見たことないので。」
「だよなぁ…」
「…それでぇ…」
「ん?」
「この袋の中身ってなんですか?」
「あぁ…ブラッドミノタウロスから回収した物だよ。魔石も入ってる。」
「え!?倒したんですか!?」
「まぁ…そうだな。いい運動になったよ。」
「……な、ならコレはアーサーさんのものです。」
「いや、言うて俺はとどめを刺しただけみたいな感じだし…それに、こんなボロボロになって挑んだんだから何も無いのは悲しいだろ。だからやるよ。」
「いやでも…」
「子供が遠慮すんな。いいな!」
「…は、はい。じゃ、じゃあありがたく貰います。」
「うん、それでよし…んじゃ、行くか。」
「は、はい。」
リヨリアとアーサーは歩き出す。
◆
「はぁ…はぁ…うっ…」
身体が限界に達しながらも歩く少女。
だが、
「あ…」
ドサッ
「あ、あれ…なんで……地面に倒れてるんだろう。」
とうとう限界の身体が動かなくなり地面に倒れる。
立とうとするも力が入らず、諦める。
(そっか…目的地も…ないから…もう歩く必要も…ない…)
少女は何もかも諦めて意識を手放す。
◆
「もう少しで出口か…」
「そうですね。」
迷宮の通路を歩く2人。
「にしても、本当にヴァンパイア族って凄いんだな…」
ふとアーサーが呟く。
「え、あ、そうですか?」
(そっか…ボクの種族の正式名称ヴァンパイア族だった。吸血鬼って呼びやすくてよく使ってたから忘れて…)
「本当にすげぇよ。上級だとは言え、治療ポーション1本で切られた腕が元通りだとは…ヒューマン族が種族の中で地位が低いのが改めて納得いくなぁ…」
力無く笑うアーサー。
「あはは…あれ?そういえば…」
「ん?どうした?」
「吸血鬼って名称で伝わってたのはなんでですか?そこまで広がった名称じゃないと思うんですけど?」
「あぁ、それはまぁ教科書に書いてあったから。」
「教科書?学生さんですか?」
「そうだぜ。この服は通ってる学校の制服。」
と手を広げて見せるアーサー。
「…かっこいいですね。」
「だろ。」
ニヒッと笑うアーサー。
(デザインが前世の制服と似てるし、ブレザーとか異世界に本当にあったんだ。それよりこんな着崩して、校則緩いのかな?)
「どうした?」
「いえ、なんでもないです。」
「お、おう。そうか。」
リヨリアとアーサーは歩く。
歩き続けて30分。
「あ、出口じゃん。」
「本当ですね。」
リヨリアとアーサーは出口の前で立ち止まる。
「出るか。」
「そうですね。」
2人は同時に出口の向こう側に出る。
「…出れた。」
「そうだな。」
目の前には迷宮に入る前と同じ景色が広がっていた。
「…やっと宿で休める。」
「ボクも帰ります。」
「お、帰るのか。じゃあ、送ってくか?」
「いえ、大丈夫です。ボクは森の中で暮らしてるので、そこまで迷惑はかけたくないので。」
「森の中で…珍しいな。」
「まぁ色々とあって。」
「そっか、じゃあ俺は宿に戻ることにするか。んじゃ、気をつけろよ。」
「はい、それでは。」
そう言い2人は別れ、帰宅路を辿る。
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