第4話

「到着…」


リヨリアは迷宮に到着する。

洞窟の入口に、空間の渦があるだけの場所。

『迷宮』

魔力の異常が生じ生成されたとされている空間。

入口は空間に中に入れば洋館や、闘技場と言った多種多様な空間広がっており、そこに生息する生き物や魔物も多種多様。

そして迷宮には迷宮主と呼ばれるボス的存在の魔物がおり、迷宮主を倒すことが迷宮探索の主な目的となっている。

リヨリアは迷宮前で、肩の狙撃銃を手に持ち、マガジンを確認する。


「マガジンは…大丈夫。」


確認したあと、狙撃銃に戻し、コッキングレバーを引いて戻す。


「よし…行こう。」


リヨリアは準備が整い、迷宮に入っていく。


〇迷宮1階


景色は一転して、石造りの狭い通路。


「…攻略開始。」


リヨリアは歩き出す。


(そういえば、迷宮って1人で行くのはおすすめされてなかったよねぇ…まぁでも、ここは5回目だし…部屋にしか魔物は出現しないから安全っちゃ、安全だよね。)


とそんなことを考えながら歩く。

そうして、最初の部屋にたどり着く。


「ここは…魔物が三体だったよね。」


リヨリアは部屋に足を踏み入れる。

その瞬間、部屋の中心に魔法陣が3つ出現し、魔物が召喚される。

全身骨だけで、剣を持つ魔物。


「デッドスケルトン…」


リヨリアはその姿を見るやいなや狙撃銃を構える。

スケルトンもリヨリアを認識するいなや、剣を構えて、襲いかかってくる。

リヨリアは、それに動じず冷静に右端のデッドスケルトンに狙いを定める。そして、引き金を引く。


バーン


発射された銃弾は右端のデッドスケルトンの頭を撃ち抜き、そのデッドスケルトンの頭は砕け散り、身体はその場に倒れる。


「まずは一体。」


と、次にその隣のデッドスケルトンを狙う。そして、引き金を引く。

そのデッドスケルトンはさきのものと同じように、頭が砕け散り、その場に倒れる。


「2体目。」


次を狙おうと、銃口を向けるが近くまで迫っていた。


「ち、近い!」


デッドスケルトンは接近すると、剣を振り下ろす。


「よっ!」


カンッ


リヨリアは咄嗟に片足に力を入れて、横に避ける。


「スキあり!」


リヨリアは剣を振り下ろしたことによるデッドスケルトンのスキを見逃さず、そこを狙い撃つ。

デッドスケルトンはそのまま銃弾にあたり、頭が砕け散り、その場合に倒れる。


「ふぅー、危なかったぁ…もう少し遅かったら…うぅ…」


嫌な想像をし、身をふるわす。


「…あ、魔石回収っと。」


やるべきことを思い出し、デッドスケルトンの動かなくなった身体に近づく。

そして、肋骨の隙間に手を入れ、赤く輝く石を取り出す。


「魔石ゲット。」


あとの2体も同じように魔石を取っていく。


「よし、この調子で頑張ろう。」


リヨリアは魔石の回収を終え、新たな部屋をめざして歩く。


そうして、2つ3つと部屋の魔物を狩っていく。

それを続けると1時間。

〇迷宮 最終階層

リヨリアは大きな扉の前に立つ。


(わぁ…なんか、最終部屋まで来ちゃった。)


大きな扉を眺める。


「迷宮主倒したことないなぁ…」


目線を下げ、持っている銃を見る。


(知ってる情報だと、ここの迷宮主はブラッドミノタウロス)


「…行けるかなぁ…」


顔を上げ、再度大きな扉を見る。


「挑戦は成長の近道…」


銃を持つ手の力が強まる。


「…行こう」


リヨリアは勇気を振り絞り、大きな扉を押し、部屋の中に入っていく。


(…暗い。)


周りの暗さに、警戒しながら前に1歩踏み出す。

その時だった。

部屋の天井に魔法陣が浮かび上がる。そして、そこから1つの大きな魔石が出てきて、光を灯す。

部屋全体はその光により、明るくなる。

そして見えてきたのは


「あれが…ブラッドミノタウロス…」


部屋の中心で、座りながら眠る人型の魔物。

リヨリアよりもずっと大きく。牛のような頭に、筋肉質な身体。そして何より、血のように赤い肌が特徴的な魔物『ブラッドミノタウロス』

ブラッドミノタウロスは、部屋が明るくなったことに気づくと、目を開き立ち上がる。


(動いた…)


リヨリアは警戒を強める。

ブラッドミノタウロスはそんなリヨリアの存在に気づくと、咆哮する。


「モォォ!!」


その咆哮が、部屋全体を揺らす。

そして、咆哮のあとのブラッドミノタウロスはリヨリアのことをジッと見つめる。


「あ…ッ!」


リヨリアも遅れて構える。

部屋に静寂がおとずれる。

そして


ジャラ


先に行動を起こしたのはブラッドミノタウロスだった。

ブラッドミノタウロスは右腕をあげる。それに合わせて、腕の手錠の鎖がジャラジャラと音が響く。


「…」


(…何をする気なんだろう…)


リヨリアは行動の意図が掴めず、動けずにいた。

その時、ふと前世のことを思い出す。


『…鎖の攻撃って微妙にかっこいいんだよねぇ。』


「ハッ!」


その記憶を思い出したことにより、反射的に足に力を入れる。

ブラッドミノタウロスは腕を力強く振り下ろす。

その瞬間、腕の鎖が勢いよく伸び、リヨリアを襲う。


ドーンッ


「危なかったぁ…」


(まさか…前世で読んでたライトノベルに出てきたミノタウロスと同じ動きをするとは思わなかった。)


「まぁ、そんなこと考えてる場合じゃないんだけどね…」


ブラッドミノタウロスの方を見る。

ブラッドミノタウロスは腕を後ろにやり、鎖を自分のところに戻す。

そして、もう一度同じように腕をあげる。


(また鎖の攻撃…あの攻撃一発でも食らったら、いくら吸血鬼の身体でも死んじゃう…だったら)


嫌な汗が額を頬を伝う。

そんなリヨリアをお構い無しに、腕を振るう。


ドーンッ!


壁に当たり、砂埃が舞う。


タンッ


「モッ!」


砂埃から、飛び出てくるリヨリア。


「全力で抗うしかないよね!」


パーンッ!


構えていた狙撃銃を発砲する。

その銃弾はブラッドミノタウロスの角に当たる。


「外した。」


リヨリアは着地したと同時に、横に走り出す。


(鎖の攻撃のせいで、全然落ち着いて狙いない。)


焦り気味になりながらも、打開策を考える。


(鎖が届かない所までっていうのは…この部屋の広さからして無理…なら、スナイパーとしてはあんまりやりたくないけど、接近するしかない。)


と、ブラッドミノタウロスの方を見る。


(でも、絶対近接もできるタイプの見た目してるからなぁ…でも近づくしか方法見つかんないんだよねぇ…)


ブラッドミノタウロスの見た目から、近づくことに躊躇う。

そこでふと気づく。


(…あれ、そういえばさっきから片手でしか攻撃してない…最初見た時も左腕には手錠してなかったぽいしなぁ…)


と考えていると。


「ん…わぁ!?」


ドーン!


鎖が気付かぬうちに飛んできており、ギリギリ避ける。


「あっぶない…完全に意識外になってた…」


立ち上がり、ブラッドミノタウロスの方を向く。


(策を考え過ぎて、攻撃が意識外になってちゃ本末転倒。だったら…)


「行くしかない。」


リヨリアは走り出す。ブラッドミノタウロスに向かって。

ブラッドミノタウロスはそれに反応し、鎖を横に引っ張る。


「…ッ!?」


鎖が迫ってくる。


タンッ


地を蹴り、高く飛び回避する。そして、そのまま着地し、また駆け出す。

ブラッドミノタウロスはそれに驚いたのか、一瞬動きが止まる。

リヨリアはその隙を見逃さず、5メートルぐらいのところまで近づく。


「モ、モォ!!」


ブラッドミノタウロスは瞬時に、これまで使ってなかった左手で殴ろうとする。


ザーッ


リヨリアはスライディングし避けると、股下をくぐりぬける。

そして


カチャ


「ここまで来たら、外さない!」


リヨリアは狙いを定め、引き金を引く。


ブシャ


「モォォ!!」


ブラッドミノタウロスの右肩に命中。ブラッドミノタウロスの肩の骨が粉砕。


「よし!」


リヨリアは当たったことに喜びながら、距離をとる。


(ここに来る途中でマガジンを強化弾の方に変えといてよかった。)


コッキングをし、2発目を準備する。


「…ここからどう来るかな…」


と、ブラッドミノタウロスを見る。


「…」


ブラッドミノタウロスは上を向く。

そして


「モォォォ!!」


最初と同じ咆哮をする。


「なんで急に咆哮…」


先よりも音のデカイ咆哮に耳を塞ぐ。

そして、咆哮を終えるブラッドミノタウロス。


「…耳鳴りが…」


キーンとなる耳を不快に思う。

ブラッドミノタウロスは咆哮を終えると、リヨリアを睨むように見る。


(…スゴイ睨まれてる…)


その睨みに殺意を感じとる。


「…」


そして、スっとブラッドミノタウロスが腕を上げて、手を広げる。

リヨリアは反射的に構える。

そうして、少しの静寂のあと、突然ブラッドミノタウロスの広げられた手の前の空間が裂け、1本の斧が出てくる。


(あぁ…なるほど…)


「第2ラウンドに入った感じかな。」


苦笑いになるリヨリア。

ブラッドミノタウロスはその斧を手に持つと構え、膝を曲げる。


「…来る。」


攻撃が来ることを感じ取り、全身に力が入る。

そして


ドンッ


地を蹴るブラッドミノタウロス。


ズシャ


「…え」


一瞬の事だった。

気がつけば、左腕が切断され、宙を舞っていた。



「あ…痛い痛い!」


あまりの痛さに、その場に膝をつく。

が、ブラッドミノタウロスはお構い無しに、連続してリヨリアに向かって足を振り上げる。


「ウッ」


腹を蹴り挙げられ宙を舞う。

ブラッドミノタウロスはそれを追うように飛ぶ。そして、またもリヨリアを蹴る。


ドーンッ


リヨリアはそのまま飛んでいき、壁にぶち当たる。


「カハッ」


壁に当たった勢いで、口からは血を吐き、意識が遠のく。


(…予想してた動きより…断然早かった…これじゃあ…)


「…勝てない。」


予想以上の出来事にそう確信する。

ブラッドミノタウロスが着地し、リヨリアに向かってくる。


(あぁ…ダメだった…まだ全然実力不足だった…次は頑張らないと…)


「て…早く回復しないと…何考えてるんだろう。」


切断された片腕、痺れる手足、遠のく意識。

自分の現状を何とかしようとする…が、途中で諦める。


(いくら吸血鬼でもこの怪我は治るのに時間は掛かる。それにこの手足だと何も出来ない。……この世界でもダメなのかぁ…前世も駄目だから、今度こそはと思ったけど…こっちでも上手くいないなんて…もういいかなぁ…)


ブラッドミノタウロスがリヨリアの前に立つ。そして、斧を振り上げ、リヨリアを見つめる。


「…タイムリミット…かな。」


リヨリアは目を瞑る。

斧が振り下ろされる。


(ここで死ぬ…)


「…ダメだ。こんな所で死んじゃだめだ!」


リヨリアの奥底にあるものが言葉になり、身体を動かす。

が、振り下ろされる斧は止まることをしらず、リヨリアに一直線に向かっていく。どんな行動を取ろうとしたって一瞬で斧が当たってしまう状況。

それでも諦めず行動をとろうとするリヨリア。


「ちょいと失礼。」


カーンッ


ひとつの声とともに、部屋中に甲高い音が鳴り響く。


「…」


リヨリアは目を開く。


「…え、誰?」


そこには、1人の青年が1本の剣でブラッドミノタウロスの斧を受け止めていた。

ボサボサの金髪に、着崩された制服の青年。


「…よっ!」


斧を弾き、ブラッドミノタウロスは後ろによろめく。

青年はその隙を見逃さず、剣を振るう。が、ブラッドミノタウロスは反応し、無理やり後ろに飛び、距離をとる。


「意外とアクロバティックだな。」


と青年は剣を構え直す。


「おい、そこの白髪少女!」


「は、はい!」


突然、話しかけられびっくりしながらも返事をするリヨリア。


「重症そうだけど、大丈夫か。」


「大丈夫です…吸血鬼なので…」


「吸血鬼…だけどその感じじゃ、回復が追いついてないみたいだけど…」


「ッ!?…その血を飲んだことがなくて…一般の吸血鬼より回復が遅いんです…」


「そか…ほれっ。」


「うわ!」


何かが投げられ、それを受け取る。

それは青緑色に輝く液体が入ったポーション。


「これは…上級治癒ポーション…」


「それ飲めば、すぐ回復するだろ。」


「いやでも…こんな高価なもの…」


「遠慮すんな。」


青年は真っ直ぐブラッドミノタウロスの方を向きながら、リヨリアに話をする。


「…モォ…モォ!」


ブラッドミノタウロスは斧を構え、地を蹴る。


「どうやら、話をする時間もくれないようだ。」


「あ、ちょ…」


青年も地を蹴り、ブラッドミノタウロスに向かって行く。

両者武器を振るう。


ガーンッ!


先よりも鈍い音が鳴り響き、武器同士がぶつかった衝撃が伝わってくる。


「アクロバティックでこの筋力はちょっとずるいなぁ!」


青年は笑みを浮かべる。そして、剣を斜めにし、斧を滑らせる。

斧は地面に刺さる。


「よっ!」


青年はすかさずブラッドミノタウロスの腕に飛び乗り、登っていく。そして、肩へとたどり着くと剣を構え、


「首…貰うよ?」


そう言い、剣をブラッドミノタウロス首に向かって振るう。

がその時、


「ん?」


何かを感じ、斧の方を見る。

すると


「うおっ!?」


突然、斧から炎が燃え盛り、青年を襲う。

青年は直ぐさま肩から飛び降り、炎を回避する。


「あっぶないなぁ、魔法?魔術?どっちでもいいけど使えたのかよ。」


ブラッドミノタウロスは斧を抜き、構える。その斧に炎が纏わりつく。


「へぇ…そう来るのね…じゃあこっちも魔術を使わないのとじゃん。」


と、剣を構える。


「…少しだけ本気出してやるよ。」


そう言い放ち、ブラッドミノタウロスに向かっていく。


(す、すごい。あのブラッドミノタウロスと剣1本で渡り合うなんて…)


リヨリアはその戦闘を驚きに満ちた目で見る。


(僕なんて一瞬でこんなにやられたのに…あの人強いなぁ…このままあの人に任せて休んでも…)


リヨリアは安心で糸が途切れたかのように意識を手放に目を瞑る。


「ん?」


(…ここで寝れるなんて、油断しすぎだろ。)


「モォ!!」


「危なっ」


振るわれた斧を避ける。


「まぁ、そろそろ片をつけないととは思ってたし、眠ってても問題ないか…」


青年はブラッドミノタウロスの方を見やる。


「モォ…」


「おまたせ迷宮主。そろそろ片をつけようぜ。」


青年は剣を前に構える。


「…俺というより、この剣の魔術見せてやるよ。」


そう呟くと、突然青年の剣に風が纏わりつく。

それを見たブラッドミノタウロスも斧に炎を纏いつかせ構える。

そして両者地を蹴り、武器を振るう。

だが、その戦いは一瞬で決着が着いた。

ブラッドミノタウロスの斧が剣に触れた途端、纏っていた炎が消え、斧が壊れる。

その勢いに任せ、青年は懐に入り、首めがけて剣を振るう。


「はぁ!」


振られた剣は、狙い通りブラッドミノタウロスの首を切る。

ブラッドミノタウロスは動かなくなり、切られた首が地面にベシャッという音と共に落ちる。

青年は直ぐさま懐から抜け、死体となったブラッドミノタウロスを見る。


「…意外といい運動になったよ…ありがとう。」


そう呟き、リヨリアの方を見る。


「…運んでやるか…」


と困った顔で頭をかく青年。

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