第29話 昔のルドルフ様に戻りました?

屋敷に着くと、アランが待っていた。


「父上、母上、姉上、おかえりなさい」


「アラン、聞いて。今日の夜会、とても見者だったのよ」


「ちょっと、お母様。アランに変な話をしないで下さい」


お母様ったら、完全に面白がっているわね。


「母上、何があったのですか?姉上も?」


「実はね」


私の静止を振り切り、アランに今日の出来事を事細かく話しているお母様。この人は本当に、どうしようもない人ね。


「なるほど、ルドルフ殿が姉上に冷たくしていたのは、そんな理由だったのですか?それにしてもルドルフ殿、そんな場面でグリーズ殿に食って掛かるだなんて、よほど姉上の事を愛していらっしゃるのですね」


なぜか笑顔のアラン。


「アランったらつい最近、ルドルフ様にずっと欲しかった他国の本をプレゼントされたのよね」


ん?本をプレゼントされたですって?


「ええ、僕がずっと欲しかった本を、ルドルフ殿が取り寄せてくれたのですよ。あんな高価な本を僕の為に準備してくれたのです。”君は未来の俺の弟になる大切な人だから“って。本当にお優しい方だよ。姉上、素敵な殿方が近くにいてくれてよかったですね」


アランがにっこりとほほ笑んでいる。どうやらアランは、ルドルフ様に買収されていた様だ。それにしてもあの人、学院をお休みしていたし、ほとんど部屋から出ずにいたと聞いたけれど、まさかアランを買収していただなんて…


「とにかく、アメリナとルドルフ様のわだかまりもなくなったし、本当によかったわ。2ヶ月後のあなたのお誕生日が楽しみね」


「お母様、私はまだ、ルドルフ様と婚約すると決めた訳ではありませんわ!いい加減な事を言わないで下さい」


「あら?あなた、あんな公衆の面前であのような事件を起こしたのに、ルドルフ様と婚約をしないの?アメリナだって、ずっとルドルフ様の事が好きだったじゃない」


「確かにそうですが…」


お母様ったら、完全にルドルフ様側に寝返っているじゃない。まあ、元々お母様とルドルフ様のお母様は、私とルドルフ様を結婚させたいと思っていたものね。


とにかくこれ以上この人たちと一緒にいると、この人たちのペースに巻き込まれそうだ。


そう思い、急いで自室へと向かった。なんだか今日は、物凄く疲れた。ゆっくり休もう。そう思い、この日は早めに就寝したのだった。


翌日

昨日色々とあって、なんだか学院に行き辛い。そもそも昨日は、サーラとグリーズ様の大切な婚約披露の日でもあったのに。なんだか私たちが話題をかっさらってしまった様で、申し訳ないのだ。


一応今日、サーラに謝らないと。


「お嬢様、急いでお着替えを。ルドルフ様が既にお待ちです」


「ルドルフ様が待っているとは、どういうことなの?」


マリーが言っていることがよくわからず、聞き返した。どうしてルドルフ様が我が家にいるのよ!


「どうやらお嬢様を、お迎えにいらしたようです」


わざわざ私を迎えに来たですって!とにかく着替えないと。


急いで着替えを済ませ、玄関に向かう。


「おはよう、アメリナ。元気そうでよかったよ。今日から一緒に学院に通おう」


にっこり微笑んだルドルフ様。この笑顔…なんだか懐かしい。


「おはようございます、ルドルフ様。別に迎えに来ていただかなくてもよかったのですよ。今まで通り、別々で…」


「いいや、俺が迎えに来たかったのだよ。もうアメリナと1秒だって離れたくないからね。さあ、行こうか」


ルドルフ様がギュッと私の手を握り、歩き出した。懐かしい…昔はこうやっていつも手を繋いで移動していたわね。あの頃よりも、ルドルフ様の手は随分と大きくなったな。


「アメリナの手、随分と大きくなったね。でも、あの頃と変わらず、柔らかくて温かいよ。俺はずっとアメリナの手を握りたかった。今日こうやって、君の手に触れられて本当に幸せだ」


ルドルフ様ったら、大げさなのだから。でも、何だろう。なんだか温かいものに包まれている様な感じがする。


馬車に乗り込むと、なぜかルドルフ様は私の隣に座ったのだ。普通は向かい合わせに座るものだが…


「アメリナ、その…本当にグリーズ殿の事は、何とも思っていないのかい?親友に為に諦めたとかじゃないよね」


真剣な表情でルドルフ様が問いかけて来た。


「ええ、彼は大切な友人の1人ですわ。それに最初からサーラに気があるという事も分かっておりましたし」


「それにしては、随分と親しかったような気がするのだが…俺はグリーズ殿に君を取られてしまうのではないかと、本当に生きた心地がしなかった」


「えっと…確かにグリーズ様とはよく話していたかもしれません。相談にも乗ってもらったりもしておりましたし。ただ、グリーズ様を異性として意識したことはございませんわ。それにグリーズ様とサーラが結ばれる事が、私の願いでもありましたし」


「分かった、信じるよ。ただ、グリーズ殿と2人きりになるのは控えて欲しい。もう二度とあんな思いはしたくないし、何よりグリーズ殿に向けるアメリナのあの笑顔。俺以外の男にあんな笑顔を向けるだなんて。俺の精神が持たないよ…」


ゾクリとするほど美しい笑みを浮かべるルドルフ様。その瞬間、背筋が凍り付くのを感じた。ルドルフ様、一体どうしたというの?

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