第30話 ルドルフ様から黒いものを感じるのですが…

「どうしたのだい、アメリナ。そんな怯えた顔をして。何も怖い事なんてないよ。さあ、学院に着いたよ。一緒に行こう」


再びスッと私の手を握ったルドルフ様に連れられ、馬車を降りた。すると


「ルドルフ様、おはようございます。あら?アメリナ様も一緒でしたの?」


待っていたのは、クレア様だ。いつもの癖で、その場を立ち去ろうとしたのだが、なぜかルドルフ様に腰を掴まれ、動く事が出来ない。それどころか、ルドルフ様の方に引き寄せられたのだ。


「おはようございます、クレア嬢。朝から待ち伏せだなんて、令嬢としてどうかと思いますよ」


「待ち伏せだなんて、私も今学院に来たばかりですわ。それよりも今日は、アメリナ様と一緒に登院されたのですか?」


「ええ、そうですよ。そうか、あなたは昨日、サーラ嬢の家の夜会に来ていらっしゃらなかったから知らないのですね。俺とアメリナは、和解したのですよ。これからはずっと、俺とアメリナは一緒に過ごすのです。ね、アメリナ」


「えっと…私は…」


「アメリナ、恥ずかしがらなくてもいいのだよ。それじゃあ、俺たちはこれで失礼します」


ギュッと私を抱き寄せたルドルフ様が歩き出した。チラリとクレア様の方を見ると、凄い形相で睨んでいたのだ。いつも穏やかな表情を浮かべているクレア様が、あんな顔をするだなんて…


「ごめんね、朝から嫌な思いをしてしまったね。あの女、ああやっていつも俺に付きまとっているのだよ。本当に目障りな女だ。でも大丈夫だよ。近いうちにあの女には、諦めてもらうから。だからアメリナは、何も心配いらないからね」


「私は別に心配などしておりませんわ」


ただ…


よく考えてみたら、いつもルドルフ様はクレア様を嫌そうに見つめていたし、彼女の傍から離れようとしていた。ルドルフ様が、何度もクレア様をあしらっている姿を見たことがある。


それなのに私ったら、お美しいクレア様の事を、ルドルフ様が嫌う訳がない。美男美女の2人は、お似合いだと勝手に思い込んでいたのだ。


人間一度思い込むと、いくら周りの状況に矛盾が生じていても、こうに違いない!と思い込んでしまう事があるのだ。思い込みって本当に怖いわね。


そんな事を考えているうちに教室に着いた。すると


「アメリナ、おはよう。早速ルドルフ様と一緒に登院して来たの?」


「おはよう、サーラ。これには色々と事情があって…」


「あら、照れなくてもいいじゃない。誤解も解けた事だし、やっぱりなんだかんだ言って、あなた達2人、とてもお似合いよ。それにアメリナだって、ルドルフ様の事を忘れ切れずにいたのでしょう?よかったじゃない」


ちょっとサーラ、また勝手な事を言って。


「私は別に、ルドルフ様の事を忘れ切れていなかった訳では…ないわよ…」


正直サーラの言う通り、私はまだルドルフ様の事を完全に吹っ切れていなかった。ただ…正直今まで散々冷たくされてきたから、どう接していいのか分からないのだ。


「サーラ嬢、アメリナは今、どうやら混乱している様なんだ。ただ、アメリナはきっと俺を受けいれてくれるよ。グリーズ殿との仲も誤解だったことが分かったし、アメリナにはもう俺しかいないからね…もう二度と、他の男をアメリナに近寄らせたりしないから…」


ルドルフ様の顔を見た瞬間、背筋が凍り付くような感覚に襲われた。なぜだろう、今までに感じた事のないこの黒いオーラの様なものは…なんだか恐怖を感じるのだが…


「とにかくもう俺は、アメリナを離すつもりはないから。これからは昔の様に、仲良くしようね。アメリナ」


「…ええ、そうですわね」


なんだか反論してはいけない空気が漂っていたので、素直に答えておいた。その後授業が始まり、各自席に着いた。


なぜだろう、今日のルドルフ様、昔のルドルフ様に戻ったように私によく構ってくれる。ただ、時折見せるあの黒いオーラの様なもの。あれは一体何なのかしら?


チラリとルドルフ様を見ると、バッチリ目があった。そしてにっこり微笑んでくれたのだ。やっぱり私、ルドルフ様の笑顔が一番好きだわ。


お昼休み、いつもの様に皆で昼食を頂こうとしたのだが…


「悪いが今日は、アメリナと2人で食事をしたいんだ。いいかな?」


急にルドルフ様がそんな事を言い出したのだ。


「ルドルフ殿、いつもの様に皆で食事をすればいいじゃないか。アメリナ嬢、いいよね」


いつもの様に、グリーズ様が私に話しかけてきたのだが…


「グリーズ殿、あまりアメリナに気安く話し掛けないでくれるかい?君にはサーラ嬢という立派な婚約者がいるだろう?それとも実は、アメリナに気があるのかい?」


再びゾクリとするような美しい微笑を浮かべながら、グリーズ様を見つめているルドルフ様。グリーズ様もルドルフ様の黒いオーラに気が付いているのか、一歩後づさったかと思うと


「…アメリナ嬢は、本当にただの友達だよ。僕が愛しているのは、サーラただ1人だ。誤解させてしまったのならすまない」


「それならもう、あまりアメリナには近づくのは控えて欲しい。アメリナ、行こうか」


私の知っているルドルフ様の笑顔に戻ったわ。それにしてもあの黒いオーラの様なものは、一体何なのかしら?



※次回、ルドルフ視点です。

よろしくお願いします。

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