第28話 これでよかったのでしょうか

「私は…その…」


急にそんな事を言われても、頭が付いていかない。どう答えればいいのか分からず固まっていると…


「アメリナ、ルドルフ様の件、誤解だったみたいでよかったわね。あなた、最近ずっと元気がなかったから、心配していたのよ」


「アメリナ嬢は今でも、ルドルフ殿の事が気になるのだろう?少し前も、校舎裏で泣いて…いや、何でもない」


慌ててグリーズ様が口を押えている。この人、結構おしゃべりなのね!もう、皆好き勝手言って。なんだかどっと疲れて来たわ。


「アメリナ、なんだか疲れた顔をしているね。さあ、こっちでゆっくり休憩しよう。そうだ、アメリナの好きなジュースを持って来るね」


なぜか私の腰に手を当て、そのままイスに座らせてくれたルドルフ様。そしてジュースを渡してくれた。このジュースは私の好きな苺ジュースだわ。


「ルドルフ様は、私の好きなジュースを覚えていて下さったのですか?」


「当たり前だろう。君が好きな物は、何でも知っているよ。アメリナ、今まで色々と辛い思いをさせてしまって、本当にごめんね。まさかあの時の会話を聞かれていたうえ、誤解までされていただなんて。その上、君に随分冷たく当たっていたことも。よく考えたら、あんな感じの悪い男、アメリナがタイプの訳ないのにね。俺はアメリナの何を見て来たのだろうと、本当に自分が情けなくて仕方がなかった」


ルドルフ様が本当に申し訳なさそうな顔をしている。


「ルドルフ様、私の方こそ変な誤解をしてしまい、申し訳ございませんでした。まさかクレア様の事を言っているだなんて、夢にも思わなくて。それからその…私がクールな男性がタイプだと言ったから、あのような態度を取っていたとお伺いしましたが、私はその…昔の真っすぐなルドルフ様の方が、素敵だと思いますわ」


真っすぐ私だけを見ていてくれた昔のルドルフ様、いつも私を大切にしてくれた彼が大好きだったのだ。


「そうだったのだね…本当にごめんね。ただ、俺はあの時から君に対する想いは全く変わっていないよ。いや…今回の件で、俺は改めてアメリナがいないと生きていけないと痛感した」


悲しそうにルドルフ様がほほ笑んだのだ。この顔…私に何度もしていた顔だわ。私、もしかして無意識にルドルフ様を傷つけていたのね…そう考えると、なんだか申し訳ない。


「アメリナがグリーズ殿と恋仲じゃなくて本当によかった。もし2人が結ばれたら、俺はきっとアメリナを…いいや、何でもない。さあ、そろそろ帰ろうか。アメリナも今日は色々とあって疲れただろう?」


「ええ、そうですね。それでは帰りましょうか」


ルドルフ様と一緒に、それぞれの両親が待つ馬車へと乗り込んだ。


「それじゃあアメリナ、また明日」


「はい、また明日」


笑顔のルドルフ様に会釈をし、馬車に乗り込んだ。すると


「アメリナ、さっきのやり取り、聞いていたわよ。まさかアメリナがそんな誤解をしていただなんて。きちんと話をすれば分かる事じゃない。それなのに、こんなにこじれさせて…」


はぁ~っとお母様がため息をついている。


「ダーウィズ侯爵と夫人から、“どうかルドルフとアメリナ嬢を婚約させてほしい。このままだとルドルフの精神が持たない!“と泣き付かれた時は、何事かと思ったけれど。まさかお互いそんな誤解をしてすれ違っていただなんてな。ルドルフ殿は、アメリナの事を相当大切に思ってくれていたのだ。あんなにやつれていて」


「本当よね。まさかルドルフ様がアメリナに冷たく当たっていた理由が、アメリナがクールな殿方が好きだと勘違いしたからだなんて。あなたの軽率な発言が招いた事なのよ。これからは、発言には気を付ける事ね。それから、いつまでも変な意地を張ってはいけないわよ。分かったわね」


「お母様、私は変な意地なんて張っていませんわ」


本当に失礼しちゃう。ただ、お母様の言う通り、軽率な発言は慎まないと。


それにしても、お父様やお母様にあのやり取りを聞かれていただなんて、なんだか恥ずかしい。いや、今日夜会に参加した人みんなに聞かれたのよね。


色々と誤解は解けたけれど、本当にこれでよかったのかしら?

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