第27話 私の勘違い?

「いやいや、気にしないで下さい。それにしても、若いと情熱的でいいですな」


「ルドルフ殿は、よほどアメリナ嬢の事を大切に思っていらっしゃるのですな。きっとアメリナ嬢が傷つくことが、許せなかったのでしょう」


なぜかサーラのお父様も、グリーズ様のお父様も笑っていた。


皆、何を言っているの?ルドルフ様は、私の事を嫌っているはずなのに…それなのに…


「あの…ルドルフ様。あなた様はアメリナの事を、嫌っているのではなかったのですか?」


ポツリとサーラが呟いたのだ。


「俺はアメリナの事を嫌っていないよ。確かにアメリナに冷たくしてしまった事もあったけれど、それはアメリナが“クールな男が好き”と言っていたからだ。だから俺は、アメリナの好みの男性になりたくて、あえてクールな男を演じていたのだよ。でも、そのせいでアメリナを傷つけてしまった事、本当にすまなく思っている。アメリナ、本当にすまなかった」


ルドルフ様が私に頭を下げて来たのだ。私がクールな男が好きと言ったから、今まで冷たくしていた?そういえばルドルフ様が真っ青な顔をして去って行った時、そんな話をしていた様な…


でも…


「あの…ルドルフ様。以前他の令息の方と“俺はあんなうるさい女、大嫌いだ。何をどうしたら、俺とあの女が婚約する話になるんだ!あの女と婚約させられるくらいなら、一生独身の方がいい!”とおっしゃっていたではありませんか?あれは私の事ですよね?」


そうよ、私は確かに令息たちと話をするルドルフ様を、この目で見ていたのよ。だから私は、ルドルフ様に嫌われているはず。


「俺はそんな事を言った記憶はないよ。第一、俺がアメリナを嫌いな訳がないだろう?ずっとずっと、アメリナのことが好きだったのだから。もちろん、今でもアメリナを愛している!」


「でも…確かにあの時、そう言ったわ。サーラも聞いていたわよね」


「ええ…確かにそう言っていたけれど…ただ、今思えばあの時ルドルフ様は、“あの女”とおっしゃられていただけで、アメリナの名前をはっきりとおっしゃっていなかったわ…」


「そう言えばルドルフ、お前そんな様なことを言っていただろう?ほら、俺たちがクレア嬢の事を聞いた時だよ…」


小声でルドルフ様の友人たちが何やら耳打ちしている。すると、何かを思い出したような顔のルドルフ様。


「もしかして、あの話を聞いていたのかい?あれは、君の話をしていた訳ではない。クレア嬢の話をしていたのだよ。俺はクレア嬢が本当に苦手なんだ。それなのに友人たちが、俺とクレア嬢は恋仲なのかって、からかって来たから。決してアメリナの事を言っていたのではない」


「えっ…クレア様の話?」


「そうだよ、アメリナ嬢。あの日俺たちは、ルドルフにクレア嬢の事を聞いていたのだよ。ルドルフはどうやらクレア嬢が苦手だったようで。いつも冷静なルドルフが声を荒げたから、あの時の事はよく覚えているよ」


そんな…


それじゃあ私の勘違いだったという事なの?


「もしかしてアメリナは、俺のあの言葉を自分の事だと勘違いして、俺に冷たくしていたのかい?」


「冷たくというか…その…ルドルフ様はずっと私に冷たかったですし、それに絶対に私の事を言っているのだと思いました。まさかクレア様の事をおっしゃっていただなんて、夢にも思いませんでしたわ」


クレア様といえば、本当に品のある令嬢なのだ。そんな令嬢を、まさか“うるさい女”と思っていただなんて。


「要するに、アメリナ嬢が完全に誤解していたという事だったのだね。おかしいと思っていたのだよね。どう考えても、ルドルフ殿はアメリナ嬢に気がある様だったからさ。アメリナ嬢、よかったね。ルドルフ殿もアメリナ嬢が好きだって分かって」


あり得ない事を呟いているのは、グレーズ様だ。ちょっと、なんて事を言ってくれるのよ。私はもう、ルドルフ様の事なんて…


「アメリナ、ごめんなさい。まさかあの時のルドルフ様の言葉が、クレア様の事を言っているとは思わなくて…」


なぜかサーラが謝っている。


「サーラ、謝らないで。私も完全に勘違いしてしまっていたし。それにしても、まさかルドルフ様がクレア様をそんな風に思っていらしただなんて…私はてっきり、お2人は恋仲なのだと思っておりましたわ」


「俺はあの女に付きまとわれていただけだよ。本当に迷惑していたんだ。俺は今でもずっと、アメリナだけを想い続けている。いつグレーズ殿に奪われるか、ずっと不安だったんだ…」


なぜか真っすぐとこちらにやって来たルドルフ様。さらに


「そのドレス、俺がアメリナの為にデザインしたんだ。よく似合っているよ。アメリナ、俺はずっとずっとアメリナの事が大好きだ。途中俺の勘違いのせいで、アメリナに辛い思いをさせてしまった事もあった。でも、これからはずっと、アメリナの傍にいる。いや、居させて欲しい。アメリナ、本当に今までごめん。今すぐアメリナが俺を受け入れてくれるとは思っていない。でも、どうかもう一度俺にチャンスをくれないかい?」


ルドルフ様が真っすぐ私を見つめている。その瞳は、真剣そのものだ。

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