第16話 アメリナの気持ちが分からない~ルドルフ視点~

やっぱりアメリナが急に俺を避けだすだなんて、変だ!そう思った俺は、クレア嬢を呼び出した。


「ルドルフ様から誘って頂けるだなんて、嬉しいですわ」


胡散臭い笑顔を浮かべているクレア嬢。俺はやっぱり、この女が苦手だ。それでもアメリナの理想通り、俺はどんな時でもクールな男性を演じなければいけない。


「アメリナの様子が変なのだが、君、何かアメリナに変な事を吹き込んだかい?」


極力冷静にクレア嬢に話しかけた。


「いいえ、アメリナ様には何も言っておりませんわ。そういえば、最近ルドルフ様の元に来なくなりましたね。もしかして、私とルドルフ様があまりにもお似合いだから、身を引いたのかもしれませんね」


この女は何を言っているのだ!誰と誰がお似合いだって?俺はお前の事が、死ぬほど嫌いなんだよ!そう叫びたい衝動を必死に抑え


「僕と君は全く似合っていない。特に何も言っていないならいいよ。急に呼び出してすまなかった」


本当はこの女を問い詰めたいが、クールな俺はそんな事は出来ない。それに何より、これ以上この女と一緒にいたくない。そんな思いから、クルリと反対方向を向くと、急ぎ足でその場を後にする。


後ろであの女が叫んでいたが、無視しておいた。


あの女に何か吹き込まれた事は間違いないが、これ以上あの女に関わりたくはない。とにかく、俺がいかにアメリナを愛しているか伝えないといけないのだが、生憎アメリナは、愛だの恋だのにうつつを抜かすような男は好きではないらしい。


その様な事を口に出さずに、クールにそれでいて、さりげなくアメリナにアピールする方法はないだろうか?



必死に考えた末、俺はアメリナ達のグループに混ぜてもらう事にした。正直俺は、可愛いアメリナが男どもと仲良くしているだけで、無性に腹が立つ。男どもをけん制すると同時に、アメリナとの仲を深める。


一石二鳥と思ったのだが…


なぜかうまくいかない。


アメリナは俺が輪の中に加わると、明らかに顔を引きつらせているのだ。俺はずっとアメリナを見て来たからわかる。彼女は俺に対し、負の感情を抱いている事を…


どうしてだ?どうして俺をそんな目でみるのだ。やっぱりアメリナは、グリーズ殿が好きなのか?でも、アメリナの好きなタイプの男性は、クールで俺について来いタイプだと言っていた。


どちらかというと、グリーズ殿は女性に優しいタイプで、アメリナのタイプではないはず。


クソ、アメリナの心が全く分からなくなってきた。


それでも俺は、何とかアメリナとの仲を取り戻したくて、アメリナの大好きだったお菓子を、料理長に大量に作らせた。きっとこのお菓子を食べれば、アメリナも喜んでくれるはず。


そう思い、アメリナ達の輪の中に入って行ったのだが…


なぜかあの女まで乱入してきたのだ。アメリナと俺の間に強引に入って来たあの女は、アメリナの為に作らせたお菓子を、我が物顔でぼりぼりと貪っている。


なんて卑しい女なんだ。そもそもこのお菓子は、アメリナの為に作らせたのだぞ。それなのにこの女は…


さらにアメリナは、自分の家から持ってきたお菓子を、他の皆に配っていた。甘いものが苦手というグリーズ殿には、俺が好きだった紅茶のクッキーを渡していた。あのお菓子は、俺とアメリナの思い出のお菓子なのに…


アメリナは本当に俺の事を、もう好きではないのだろうか…


悲しくて辛くて、胸が張り裂けそうになる。それでも俺はアメリナが大好きだ。昔の様に、アメリナの傍にいたい。


第一俺は、アメリナの理想の男性を演じているのに、どうして…


その日はどうしていいのか分からず、屋敷に帰って来た。食事も喉を通らず、ソファに座り込み考え込む。


俺の何がいけないのだろう。俺はただ、アメリナの理想の男になりたくて、必死にクールな男を演じていたのに…このままでは、本当にアメリナと婚約が出来なくなってしまうのではないか…


そんな不安が俺を襲った。


「坊ちゃま、部屋に灯りも付けずに、何をそんなに悩んでおられるのですか?」


やって来たのは、俺の執事だ。彼は非常に優秀で、既に妻と3人の子供がいる。


「実はアメリナが、最近俺を避け始めたんだよ…俺はアメリナの理想の男になるために、クールな男性を演じていたのに…このままだと、本当にアメリナを失ってしまうかもしれない」


俺は必死に執事に訴えた。気が付くと、ポロポロと涙が溢れていた。一瞬大きく目を見開いたと思ったら、はぁっと、ため息をついた執事。


「坊ちゃま、もしかして以前からアメリナ様に冷たくしていらしたのは、その…クールな男性を演じるためですか?」


「ああ、そうだよ。アメリナはクールな男性が好きなんだ。だから俺は、自分の気持ちを押し殺して、必死にクールな男性を演じていたんだよ」


「本当にアメリナ様は、今の坊ちゃまの様な姿を、好んでいらっしゃるのでしょうか?昔の坊ちゃまとアメリナ様は、私から見ても本当に幸せそうでした。坊ちゃまも心底アメリナ様がお好きなのだろうと、使用人一同、微笑ましく見ておりました。でも、今の坊ちゃまはどうでしょう?アメリナ様をお世辞にも大切にしている様には見えません」


「それは、アメリナの好きなクールな男性を演じるために…」


「でも、理想の男性を演じている坊ちゃまの事を、アメリナ様が避けだしたと言う事は、坊ちゃまの演じているクールな男性を、アメリナ様はお好きではないと言う事ではありませんか?私も今の坊ちゃまよりも、昔の素直で表情が豊かだった坊ちゃまの方が魅力的に感じますよ」


執事の言う言葉が、胸に突き刺さる。


でも…


間違いなくアメリナは、クールな男性が好きだと言ったのだ。だから、クールな俺をやめるなんてできない。やめてもっと嫌われたら…


考えれば考えるほど、どうしていいか分からなくなってきた。


一体俺は、どうすればいいのだろう…

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