第9話 俺の大切なアメリナ~ルドルフ視点~

学院から戻ってくると、そのままソファに座り込み、頭を抱えた。


「なんでだ…どうしてアメリナが…アメリナの理想通りの男性になったはずなのに…どうして…」


俺は子供の頃から、無邪気で人懐っこく、甘えん坊なアメリナが好きで好きでたまらなかった。家が近くだったのと特に母親同士が仲が良く、俺とアメリナを結婚させたいと強く思っていた様で、物心ついた時から、俺たちはずっと一緒だった。


アメリナは本当に素直で


“ルドルフ様、大好き。大きくなったら私、ルドルフ様のお嫁さんになるわ”


そう言ってとびっきりの笑顔を見せてくれていた。俺もアメリナが可愛くて可愛くて仕方がなく


“もちろんだよ、いいかい、アメリナ。俺以外の男とは話してはいけないよ。あいつらは俺とアメリナの仲を引き裂こうとする悪い奴なんだ。分かったね”


常々そう伝えて来た。アメリナは俺の言う事を素直に聞き、俺の傍にずっといた。ただ、中にはアメリナに近づこうとする令息もいた。そんな奴は、全力で追い払った。アメリナは俺のものだ。誰にも渡さない。


時が過ぎるにつれて、俺の気持ちは日に日に大きくなっていった。毎日アメリナの元を訪ね、抱きしめたり頬に口づけをしたり頬ずりをしたり。ずっと彼女といたい、1秒だって離れたくない。そんな思いが、俺の心を支配していく。


そんなある日、事件が起こったのだ。それはアメリナと一緒に侯爵令嬢の誕生日会に招待された時だった。少し目を話した隙に、アメリナが居なくなったのだ。アメリナの奴、どこに行ったんだ?あれほど俺から離れてはいけないと言ったのに!


必死にアメリナを探すと、そこには今日の主役の侯爵令嬢を始め、何人もの令嬢が話をしていた。その輪の中に、アメリナもいたのだ。


「やっぱり男性は、クールな方がいいわよね。黙って俺について来い!みたいな人、素敵だと思わない?私、結婚するなら、そんな男性と結婚したいわ」


「そうですわよね。あまり露骨に愛情表現を示されると、冷めてしまいますわよね。やっぱり男の人は、いつもどっしりと構えていないと。女に追わせるくらいの人の方が、素敵ですわ。アメリナ様もそう思いませんか?」


令嬢たちがそんな話をしていたのだ。何だって?男はあまり愛情表現をしない方がいいのか?言葉数少なく、俺について来い!みたいなのが人気なのか?


気になってアメリナの方を向く。アメリナは、一体何と答えるのだろう。俺に背を向ける形になっているため、アメリナの表情が全く見えないのが、俺の不安を仰ぐ。


「あの…私は…私もそう思いますわ…」


そう呟くアメリナ。


そんな…


アメリナはクールな男が好きだったのか?今の俺とは、全くの正反対な人間を好きだなんて…もしかしてアメリナは、俺の事が好きではないのか?


鈍器で殴られたようなショックを受けた。あまりのショックに、その日は1人で屋敷に帰って来た。


そんな…


アメリナはクールで口数が少なく、あまり愛情表現を示さない男が好きだっただなんて…もしかしたら、俺との結婚も、実は考えてないのかもしれない。


嫌だ!俺はアメリナと結婚できないなら、生きている意味なんてない!とにかく、アメリナの理想の男性にならないと!


この日から俺は、クールな男を演じる事にした。自分の事も“僕”と呼び、あまり感情を表さないようにした。アメリナにも、自分から関わらないようにしたのだ。最初は戸惑っていたアメリナだったが、俺がアメリナを構わなくなってから、必死に俺の気を引こうとするようになった。


それが嬉しくてたまらなかった。


ただ、やはりアメリナに触れられない時間は、苦痛でしかない。それでもアメリナとの幸せの為、そう自分に言い聞かせて、アメリナの理想の男性、クールな男を演じ続けたのだ。


そんな日々を送っているうちに、俺たちは貴族学院に入学した。貴族学院には、沢山の貴族令息たちがいる。万が一アメリナに近づく男が居たらどうしよう。そんな不安はあったものの、学院に入学してからも、相変わらずアメリナは俺に夢中だった。


ただ、なぜか俺に付きまとってくる女が。シャレスト侯爵家のクレア嬢だ。胡散臭い笑顔を浮かべ、俺に近づいて来ては、猫なで声で話しかけてくるのだ。俺が迷惑そうにあしらっても、無視しても話しかけ続けてくる。


一度はっきりと


“僕は君に興味がない。悪いがもう僕に付きまとわないでくれ。迷惑だ”


そう伝えたのだが、あの女、全く俺の気持ちを理解していないのか、俺を見つけると必ず寄って来るのだ。その上、アメリナが俺の元に来ようとすると、胡散臭い笑顔を振りまき、上手くアメリナを俺から遠ざける。


何なんだよ!この女は!


俺が聞いてもいない事をベラベラと大きな声で話し、事あるごとにベタベタとくっ付いてくる。不快以外何物でもない。こんな下品な女、初めて見た。でも、どうやら世間ではこの女の評価は違う様だ。


お上品で清楚な令嬢として定評があるらしい。この女がお上品で清楚だと!あり得ないだろう。


俺は日に日にクレア嬢に対するいら立ちを募らせていった。

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