第4話 サーラがお見舞いに来てくれました

果物を食べ、薬を飲んだ後は、猛烈な眠気に襲われ、そのまま眠りについた。次に目を覚ました時は、夕方だった。軽く食べ物を食べ、再び眠りにつく。


有難い事に体が辛いせいか、すぐに眠る事が出来たおかげで、この日は嫌な事を考えずに済んだ。


翌日、熱は下がり、頭痛もよくなったものの、念のためこの日も貴族学院を休むことになった。


1人静かに部屋で過ごす。


今頃皆、お勉強をしている頃ね。


サーラ、きっと心配しているだろうな。ルドルフ様はきっと、うるさい私が居なくて、快適に過ごしているだろう。


ルドルフ様…


彼の事を考えた瞬間、胸がズキリと痛む。ルドルフ様の本心を聞いたあの日に比べれば、随分と心は落ち着いた。それでもやはり、彼を思うと涙が込みあげてくるのだ。いつまでも泣いていてはいけない事もわかっている。


私は伯爵令嬢だ。ルドルフ様と結婚する事が出来ないとわかった今、別の殿方と結婚しなければいけないという事も。でも今は、さすがにそこまで考える余裕はない。とにかくこれ以上、ルドルフ様に迷惑をかけないように、彼には極力関わらない様にしよう。


それが今の私にできる、彼への唯一の事だから…


ただ、やはり気になるのは両親の事。娘がここまで嫌われていると知ったら、きっとショックを受けるだろう。時間を見て、ルドルフ様とは婚約しない旨を伝えないと…


あぁ、なんだかまた頭が痛くなってきた。もう少し寝ようかしら?


再びベッドに入ろうとした時だった。


「お嬢様、サーラ様がいらしておりますが…」


「サーラが?すぐに通して頂戴」


きっと私を心配してきてくれたのだわ!


本来なら客間に通すところだが、私とサーラの仲だ。いつものように、私の部屋に案内してもらう様にマリーに頼む。


「アメリナ、あなたが2日も学院を休むから、とても心配していたのよ。昨日もあなたの家を訪ねたのだけれど、酷い熱で寝ていると聞いて。もう大丈夫なの?」


心配そうにサーラが部屋にやって来た。


「心配をかけてごめんね。ほら、私って辛い事があると、熱を出す体質でしょう。それで、今回も熱を出しちゃって。でも、もう熱も下がったし、大丈夫よ」


「そうだったわね。明日と明後日は学院もお休みだし、ゆっくり休むといいわ。ただ…アメリナにとって学院に来るのは辛いわよね…」


確かに学院にはルドルフ様がいらっしゃる。正直今は、顔を見るのも辛いが、生憎同じクラスの為、顔を会わせないというのはほぼ不可能なのだ。


でも、ずっと学院を休んでいる訳にはいかない。


「正直辛くないと言ったらウソになるけれど、このままずっと学院を休んでいたら、きっと両親やアランが不審に思うわ。それにいつまでも落ち込んでいても、仕方がないものね。しばらくはきっと、ルドルフ様を直視できないと思うけれど、学院には行くわ」


「そう…分かったわ。大丈夫よ、私がずっとアメリナの傍にいるから。それに殿方はルドルフ様だけではないし、きっとあなたにも素敵な殿方が現れるわ。アメリナはとっても可愛くて、魅力的な女性なのですもの。と言っても、今はそんな事はまだ考えられないわよね」


「ありがとう、サーラ。そうよね、ルドルフ様との結婚が絶望的になったのですもの。いつまでも落ち込んで泣いていても仕方がないわよね。ただ…我が家とルドルフ様の家族はとても仲が良くて…子供同士の結婚を熱望していたから。特にお母様に何て言ったらいいか…」


お母様の悲しそうな顔を想像したら、また涙が溢れそうになる。


「アメリナったら、何を言っているの?今時親の顔色を見て結婚相手を決めるなんて、時代錯誤もいいところよ。それにあなたの両親は、あなたの幸せを一番に考えてくれているじゃない。自分の娘を傷つける男とは、絶対に結婚させたくないと思うわ。よく考えてみて、あなただって、アラン様の事を毛嫌いしている令嬢との結婚なんて、絶対に反対でしょう?」


「もちろんよ!私の可愛いアランを嫌っている人間と、誰が結婚なんてさせるものですか!そんな相手と結婚しても、絶対にアランは幸せになれないわ!」


必死にサーラに訴える私を見て、サーラがクスクスと笑い出した。一体何がおかしいのかしら?


「アメリナがそう思うって事は、同じくあなたのご両親やアラン様も、同じことを思うのではなくって?違う?」


確かにサーラの言う通りだ。


「そうね…サーラ、ありがとう。私なんだか、前に進める気がして来たわ。ただ…まだ心は辛いけれど…」


「ずっと好きだった人に、あんな風に拒否されたのですもの。そんなにすぐに立ち直れと言う方が無理よ。アメリナ、無理に忘れようとしなくてもいいと私は思うわ。時間が少しずつ、解決してくれる。だから、今はゆっくり休んで」


そう言うと、サーラがギュッと抱きしめてくれた。サーラの温もりが、心地いい…


「ありがとう、サーラ。私、少しだけ前を向ける気がして来た。いつまでも落ち込んでいるなんて、私らしくないもの。そうだわ、ルドルフ様よりも素敵な殿方を見つけて、彼を見返してやるわ!」


「もう、アメリナったら。とにかく無理はしないでね。それじゃあ、私はそろそろ帰るわ。また学院でね」


笑顔で部屋から出ていくサーラ。彼女と話をしたおかげか、少しだけ心が軽くなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る