第5話 なぜかルドルフ様が我が家を訪ねて来たようです

サーラと話をして、少し心が軽くなった。いつまでも落ち込んでいても仕方がない。少しずつ前に進まないと。


「マリー、少し大きめの箱を準備してくれるかしら?」


外に控えていたマリーに箱を準備してもらう様に頼む。一瞬不思議そうな顔をしたマリーだったが、すぐに大きめの箱を部屋に持ってきてくれた。


早速この箱に、ルドルフ様との思い出の品を詰めていく。これは8歳の誕生日プレゼントに貰ったもの。こっちは7歳の誕生日プレゼントだったわね。


律儀なルドルフ様は、毎年私の誕生日には、立派な宝石を贈って下さるのだ。きっとルドルフ様のお母様に、私へのプレゼントを贈る様に言われていたのだろう。ルドルフ様のお母様と家の母親は親友で、私とルドルフ様を結婚させることを熱望している。


きっと心のお優しいルドルフ様も、ご自分のお母様を悲しませたくなくて、大嫌いな私にプレゼントを贈っていたのだろう…


それなのに私は、毎年のプレゼントを私への愛情表現の一種だと、盛大な勘違いをしていたのだから、本当に恥ずかしい。ある意味、先日ルドルフ様の気持ちが分かってよかったのかもしれない。


もし知らなかったら、これからもルドルフ様の迷惑を顧みず、付きまとい続け、挙句の果てには15歳になったタイミングで、きっと婚約を迫っていた事だろう。考えただけでも、ぞっとする。


散々迷惑をかけてしまったけれど、今からでもルドルフ様に関わるのはやめよう。そんな思いを抱きながら、ルドルフ様から頂いたものなどを、箱に詰めていく。こうやって詰めていくと、結構量があるものだ。全てを詰め終わると、クローゼットの一番奥にしまった。もう二度と、この箱を開ける事はないだろう。折を見て、全て処分しよう。


さすがに疲れたわ。マリーにお茶でも入れてもらおう。そう思い、ソファーに腰を下ろした時だった。


「お嬢様、ルドルフ様がお見えになっております」


「えっ?ルドルフ様が?」


訳が分からず、マリーに聞き返した。一体何をしに来たのかしら?


「ええ…昨日もいらしたのですが、お嬢様は熱が高かったので、お帰り頂いたのです。今客間でお待ちです」


昨日も来たですって?きっとルドルフ様のお母様に、様子を見に行けとでも言われたのだろう。


「マリー、悪いのだけれど、また少し体調が悪くなってきて…申し訳ないのだけれど、帰ってもらって。それから、私はもう随分よくなっているから、もう来なくてもいいと伝えてもらえるかしら?」


「ですが…」


「お願い…」


ルドルフ様の気持ちを知ってしまった今、ルドルフ様に会う勇気はない。どんな顔をして会ったらいいのか、分からないのだ。


「承知いたしました。そのようにお伝えさせていただきます」


部屋から出ていくマリーを見送った。しばらくすると、大きな花束を持って戻ってきたマリー。


「ルドルフ様が、これをお嬢様にとおっしゃられておりました。立派なお花ですね。お部屋に飾りましょう」


「マリー、私ね、今お花の匂いを嗅ぐと気持ち悪くなるの。申し訳ないけれど、お母様にでもあげて」


「…分かりましたわ。それではこのお花は、奥様に差し上げて参りますね」


少し悲しそうに笑ったマリーが、花束を持って部屋から出て行った。


どうして…


どうして私の事が大嫌いなのに、あんな立派な花を持って来るの?一体どういうつもりなの?私の事を嫌いなら、そんな事をしないで欲しい。


気が付くと、涙が溢れ出ていた。


「アメリナ、マリーから聞いたわ。ルドルフ様と会わずに帰って頂いた上、持ってきてくださったお花も部屋に飾らないで欲しいと言ったそうじゃない。一体何があったの?」


心配そうな顔のお母様が、部屋に入って来た。


「お母様…私は…」


ポロポロと溢れる涙を、止める事が出来ない。そんな私の隣にお母様が腰を下ろした。


「もしかして、ルドルフ様と何かあった?」


「あの…私…」


実は私、ルドルフ様に物凄く嫌われていて…なんて、さすがに言えない。


「ルドルフ様と何かあったのね。あなたには物心ついた時から、ルドルフ様と結婚しなさいと、言い続けてきたわよね。それがもしかして、あなたの負担になっていたのではないかと思って…アメリナ、この国は貴族間であれば、本人同士の気持ちを極力大切にして、結婚相手を決めるのが一般的よ。それなのに私は、親友の息子とあなたが結婚してくれたらだなんて勝手な事を言ってしまって。もしアメリナが、ルドルフ様と結婚したくないと言うのなら、私はあなたの意見を尊重するわ」


「お母様?」


「アメリナは何か辛い事や悩みがあると、熱を出す癖があるでしょう?熱を出す前日、あなた、大泣きしていたそうじゃない。ルドルフ様と何かあったのでしょう?最近ルドルフ様が、あなたに冷たく当たっていたことも知っているわ。先日の夜会でのダンスも、一曲だけ踊ってどこかに行ってしまったでしょう?そんな姿を見ていたら、私もなんだか不安になって…私の為に無理にルドルフ様と婚約をしようとしてくれているのなら、申し訳ない事をしたと思って。あなたの人生は、あなたのものよ。それなのに私ったら…本当にごめんなさい」


お母様が私を抱きしめてくれる。そんなお母様を見たら、一気に涙が溢れ出す。


「ありがとうございます、お母様…私、ルドルフ様に…」


「もう何も言わなくてもいいのよ。あなたが思う様に生きたらいいの。さあ、まだ病み上がりなのだから、今日はゆっくり休みなさい」


お母様にベッドに寝かされてしまった。そのまま笑顔で出ていくお母様。待って、まだ話が…


そう思ったが、まあいいか。


お母様と話をして、また心が軽くなった。なんだか前に進めそうな気がする。

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