第2話 泣いて泣いて泣きまくりました

次から次へと溢れる涙を止める事が出来ない。1人静かに泣いていると、あっと言う間に屋敷についてしまった。御者がドアを開けてくれた。


こんな所で泣いていてはダメね。スッと涙をふき、今にも溢れそうになる涙を必死に堪え、急いで自室へと戻ってきた。


「お嬢様、一体どうされたのですか?いつもお元気なお嬢様が泣いて帰っていらっしゃるだなんて。もしかして、学院で虐められたのですか?」


心配そうに駆け寄ってくるのは、私の専属メイド、マリーだ。


「何でもないのよ。ただ…ちょっと色々とあって。でも気にしないで。私は大丈夫だから。少し1人にしてくれるかしら?」


極力笑顔をマリーに向けるが、涙を止める事は出来ない。


「…分かりました。何かありましたら、すぐにお呼びください」


心配そうな顔のマリーが、部屋から出て行った。その瞬間、一気に涙が溢れ出す。


私はずっとルドルフ様が好きだった。9ヶ月後にはルドルフ様と婚約を結ぶものだと思っていた。私の両親もルドルフ様の両親も、私たちの婚約を熱望している。


でも…


当のルドルフ様は、私の事を毛嫌いしていただなんて…


私、これからどうすればいいのだろう。ずっとずっと好きだったルドルフ様に、あんな風に嫌われていたと知った今、どうやって生きていけばいいのかすら分からない。目の前が真っ暗で、胸が苦しくてたまらない。


「うわぁぁぁん」


どうしようもない思いが溢れ出し、子供の様に声を上げて泣いた。私はもう14歳、後9ヶ月もすれば婚約を結べる歳になるというのに。子供の様に声を上げて泣くだなんて、本当に情けない。それでも声を上げて泣かないと、心が押しつぶされてしまいそうになるのだ。


辛い、辛い、辛いよ…


こんなに辛いのなら、ルドルフ様に出会わなければよかった。そんな事すら考えてしまう。


「…お嬢様、申し訳ございません。しばらく1人にして欲しいとの事でしたが、どうしても気になって。ご夕食のお時間ですが…」


心配そうにマリーが部屋に入って来た。マリーに心配をかけてしまうだなんて、私は一体何をしているのかしら。でも今は、マリーを気遣うほどの余裕はない。


「マリー、ごめんなさい。今日は食欲がないの。食事はいいわ。お父様たちには、体調がすぐれないから寝ていると伝えてもらえるかしら?」


「かしこまりました。お嬢様、あの…いいえ、何でもありません。それでは失礼いたします。何かあれば、お声がけください」


そう言って外に出て行ったマリー。彼女はいつも私の事を考えてくれている。きっとどうしてそんなに泣いているのか、気になって仕方がないのだろう。ごめんね、マリー。でも、どうしてもあなたにも話せないの。大好きなルドルフ様に嫌われ、絶対に私とは婚約しないと思われていただなんて。


ルドルフ様の事を考えたら、再び涙が溢れ出した。


きっと両親や弟のアランも心配しているだろう。それでも今日はきっと、そっとしておいてくれるはず。私の家族は、そういう人たちなのだ。


ただ、家の両親は私とルドルフ様が15歳になったら、婚約すると信じている。もしルドルフ様が私を物凄く嫌っていて、絶対に私とは婚約しない事を知ったら、きっと悲しむだろう。


私は両親が大好きだ。私の行いのせいでルドルフ様に嫌われ、私とルドルフ様が婚約しない事を知ったら…そう考えると、両親にも申し訳なさすぎる。


本当に私は、どうしようもないダメな人間なんだ。そう思ったら、また声を上げて泣いた。泣いて泣いて泣き続けても、一向に涙が止まる気配はない。


分かっている、泣いてもどうしようもない事くらい。私の今までの行いのせいで、彼に不快な思いをさせてしまった事、そしてあそこまで嫌われてしまった事は、全て私に原因があるのだろう。


だからこそ、彼の幸せを願って、身を引くべきなのだろう。頭では分かっている。ただ、心が付いていかないのだ。


結局その日は、夜遅くまで1人泣き続けたのだった。

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