第23話 物理なら

 絶望する俺たち二人を見て、委員長が怪訝そうにする。


「ゴウキュウとは何ですか? 強い弓と書いて強弓ですか?」


「幽霊捕獲装置さ」


 ふんすふんすと鼻を鳴らす霊子と、更に顔を歪める委員長。


「柳谷くん、幽々亭さんは本気で言っているのですか?」


「残念ながら事実だ。それより人の正気を疑うなら、まず服を着てくれ……」


 暗がりの中、俺と霊子のヘッドライトの明かり程度は気にならないのか、委員長は堂々と全裸だ。


「服は比較的奇麗だった向かいの部屋の椅子の上です」


「じゃあこれ」


 俺はパーカーを脱ぎ、委員長に渡す。


「自然に脱いで、自分がびっスパをやるつもりではないでしょうね?」


「やるか!」


 【びっスパ】って略すんだアレ……。


 世界一どうでもいい知識が一個増えた。


「はぁ」


 特段嬉しそうな様子もなく、パーカーを受け取った委員長はすっぽりとかぶった。


 俺の方が身長も高いし筋肉の関係でサイズも大きいので、ちょうどワンピースを着ているような格好になった。


「これはこれでエロくないですか?」


「……ノーコメントで」


 魅惑の生足の上、パーカーの下が裸だとわかっているから余計にエロい。チラリズムが刺激されるんだろうか……。


 だが、口が裂けてもそんなことは言えない。


「じーっ」


 隣で三色団子が軽蔑の目線を送ってきているからだ。


 あと口で「じーっ」って言ってるからだ。


「オホン、そんなことより問題は平定をどうするかってことだ」


「先ほども言っていたように思いますが、平定とは?」


「平成の阿部定の略だよ。そこの三色団子がつけた」


「なるほど。では私もそれに合わせましょう」


「では、これからを相談するとしよう」


 その間にもドアはガンガン叩かれている。


『出て来い出て来い出て来い出て来い!! 裏切者裏切者!!』


 首なしライダーはもっと茫漠としていたが、これはもう幽霊というより昔ばなしの鬼のようだ。

 完全に物理的な存在としか思えない。


 怖いは怖いが、ここまで物理的だと、逆に安心している自分もいる。


 筋肉を鍛えていると、嫌な目に遭っても「その気になればぶっ飛ばせるしな」と考えることで気が楽になることがある。


 物理ならブン殴れる。

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