第22話 おしまいの同意

『アアアアアアアアアアアアアア!!』


 平定は怒り狂って包丁を突き出す。


 狂気じみたその突きは、まるで正確ではないが、与える恐怖感は尋常ではない。


「逃げろ!!」


「はい」


 委員長を奥に押しやる。


『ろすろすろすろすろす!!!』


 だが、そんな委員長には目もくれず、俺に向かって包丁が振り下ろされる。


 必死で避けるが、次々と突き出される包丁。


 明らかに俺を狙っている。


「何で俺だけ――」


「この幽霊は局部をもぐそうですから」


「そうだったな……ってうへぇ!?」


『もぐもぐもぐもぐもぐ!!』


 やだ。絶対やだ!!


 幽霊より変態のほうが怖いと思ったが、実物の幽霊はその比じゃなかった。


 車が段差で跳ねたときのような、股間の浮遊感が襲って来る。


「こっちだ!!」


 一足早く退避していた霊子が、奥の部屋から半身を出して手招きした。


「!」


 俺と委員長――ちなみに全裸だ――は、慌ててその部屋に飛び込んだ。


 それを確認してドアを閉める霊子。


 間一髪、ドアの向こうで包丁がぶつかるガンガンという音が響く。


「ふぅ、危ないところでしたね」


「いや、幽霊なんだから、通り抜けてくるんじゃないか?」


「確かに……!」


 霊体どうこうではなく、仮に水滴だとしてもドアの隙間くらい潜れるだろう。


 それを考えると、安心というわけにもいかない。


「大丈夫だ。少なくとも包丁は個体だ。壁など通り抜けられない」


 そうか、籠城が効くわけだ。


 と、そこで――


「しまった!!」


「どうしたんだい」


「5Qを廊下に置き忘れてきちまった!!」


「おしまいだね!!」


 やってしまった……。


 慌てて逃げてきたので、あのクソ重い5Qを廊下の入り口辺りに置いてきてしまったのだ。

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