第21話 血染めの包丁

「なに?」


 振り向いた俺たちの目線の先には、真っ赤なネグリジェを着た女がいた。


 いや、返り血を浴びて、真っ赤になった服だ。


 右手には同じく血がこびりついた出刃包丁が握られている。


 そして、その位置は上り階段の途中であるから、目線の高さに人がいるとは考えにくい。


「うわあああああああああああああああああっ!?」


「平定だ!!」


 死人の顔色のそれに、生首の悪夢がフラッシュバックして全身から汗が噴き出す。


「なんと本物ですか」


『アアアアアアアアア……』


 空中に浮かんだそれが、鬼火を纏って輝きだし、うつろな目で包丁を振りかざした。


「あぶなっ!?」


 白刃が俺の前を通り過ぎる。


 それは水に投影された映像などではなく、明らかに物理的な重みを感じさせるものだった。


 その証拠に、かすった服の胸元が僅かに切れて裂けている。


「マジかよ……」


『す……す……す』


 目の光と同じく、行動にも正気を感じない。


 何かをぶつぶつつぶやきながら空中で包丁を振り回している。


「くそっ!」


 よりによって階段側から来たから逃げられない。


 いきなり突っ込んでこないだけマシだが、あれでは潜るのも無理だ。


「おい、二人とも、奥に退け!!」


「賛成だ!!」


「いえ、任せてください」


 俺の前に委員長が飛び出した。


 そしておもむろに布団を投げ捨て、裸身を露わにした。


「おい、バカやめろ!! 危ないぞ!!」


 俺の声など意に介さず、委員長はケツを平定に向けて叩き出した。


「びっくりするほどすっぱだか!! びっくりするほどすっぱだか!!」


 絶叫が響き渡る。


 だが、平定には何の変化もない。


『ころす……ころすろすろす……』


 ぶつぶつとつぶやいているだけだ。


 それが明らかに強くなって、何を言っているかもわかるようになってくる。


 これは、まずい!


「びっくりするほどすっぱだか!! びっくりするほどすっぱだか!!」


「馬鹿っ!!」


 俺は強引に委員長の腕を引っ張り、廊下の奥に引きこんだ。


「えっ!?」


 相変わらず包丁を振り回しながらふらふらと寄ってくる平定。


 委員長が狙われている感じはないが、危うくその刃が当たるところだった。


「効かない……? なぜ……」

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