第12話 男子高校生のプライド

 逆海月に足を踏み入れる。


 何の意味があるのかわからないアーチをくぐり、外から見えにくく配置された塀の奥の入り口に向かう。


「最近、目撃例がある白い女の霊というのはね、平定とは別なんだ」


「え? そうなのか?」


「近隣のあちこちの心霊スポットで目撃されていてね。どうも移動しているみたいなんだ。まだここでは目撃例がなかったから、遭遇の可能性は高いと思うよ」


 確かに、誰かに憑りつくみたいな話で「ついてくる」のはよく聞くが、自発的に移動するというのは、怪談でもあんまり聞いた覚えがない。


 廃墟巡りが趣味の霊とかだったりするんだろうか。


 考えているうちに、建物内に侵入していた。


 夕陽が窓から入ってきているので、まだライトはいらないくらいの明るさだ。


 受付らしきものがあるが、カーテンがしまっていた。


 一方、壁には部屋を示したパネルがあり、ランプがとりつけられている。


 あれで空き部屋を判断して行くのかな。


 だとすると、受付はなんのためにあるんだ?


 支払い? いや、でも時間貸しなら部屋で清算なのか?


 よくわからん。


「利用するときのことでも考えているのかい?」


「そそそそ、そんなんちゃうわ」


「何で関西弁なんだい」


「その、移動する霊ってのに馴染みがないから考えてただけだ」


「うん、非常に興味深いよね。滅多に聞かないケースだ。特定のルートを持つのか、それともランダムか。あるいは心霊スポットを巡る人物に憑りついているのか」


「……待てよ。それが出たとして――」


「そう、場合によっては平定と同時に出現するかもしれないね」


「げぇ……」


 幽霊の鉢合わせなんて想像するだにゾッとする。


 廊下の前後から挟まれる自分たちが容易に浮かぶ。


 この廃墟の空気は、湿度が高く、体にまとわりついてくるようでもあり、あのトンネルのそれを思い出させる。


 幽霊が水滴をスクリーンにする焼き付きなら、ここで出てきてもおかしくはなさそうだ。


「塩、持っとくかい?」


 俺の不安を見てとったのか、布団から差し出される塩ボール。


 ちゃんと二個なあたり、こいつなりに考えてるんだろうか。


「一応、もらっとこう……」


 これが効くことは首なしライダーで証明されている。


 クソ重いキャリーバッグよりよっぽど安心感があった。


「さて、二階からが客室みたいだね。上がってみようか」


「パネルを見るに四階建てか。このバッグ担いで上がるのは面倒だな……」


「二階で出てきてくれることを祈るんだね」


 案外中は思ったほど荒れてはおらず、ただ壁紙がはがれていたり、なぜか古いエロ本が散乱していたりはするが、階段を上がるのには支障がない程度だ。


「よっと」


 面倒なので5Qは肩に担いでいく。


 これでも体は過剰気味に鍛えている。流石にこの重さにも、もう慣れてきた。


 二階には見た感じ左右4つずつ部屋があるようだった。


「中に入るのか?」


「興味津々かい?」


 ないことは、ない。


「んなわけあるか」


 本心を隠す男子高校生のプライド。


「まぁ、入るけどね」


「入るんかい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る