第11話 平成の阿部定
「油断しすぎなんじゃないのか?」
「しょせんは廃墟さ。気にするなら、安全性だよ」
「カネ余りの時期に作られた分、頑丈そうだが……治安は気になるな」
「キミのその筋肉ならどうでもなるだろう? スコヴィル氏もあるし」
「それはやめろ」
あれはもう兵器だろう。自分はアルコール消毒のボトルを、表裏逆に押してしまい、顔面にアルコールが噴射された経験があるだけに、スコヴィル氏でそれを想像したら寒気がする。
余計なトラウマを増やしている場合じゃない。
「それでどうするんだ? 中に入るのか?」
「もちろん」
何がもちろんなのかはわからないが、幸い人通りはない。
高速料金を嫌って下の道を通る運送トラックくらいしか通らない道だしな。
「平成の阿部定の霊――長いから
しようかじゃないが、まぁ面倒なのでそのまま流す。
「平定の霊が出るのは、廊下が一番多いそうだ。各部屋を見て回り、男を見かけると男性器をもぐという」
股間がヒュン、とする。
そんな話をされた男でゾッとしない奴はいないだろう。
「実際、もいだりできるもんなのか? 幽霊ってのは水滴に転写された奴なんだろ?」
「呪い殺すとか祟りみたいなものは解釈次第だろうが、そこまでの物理的作用はなかなか考えにくいね。ただ、脳細胞のネットワークは、焼き付きによってプリント回路のように疑似的に存在すると考えられるから、死亡時の前後の行動を試みようとしてくるのはあるだろう」
なるほど……感心してばっかだが、霊子の話はいちいち筋が通っている。
死亡時の感情が空間に焼き付いたのが霊なら、その時の行動を繰り返すというのはありそうな話だ。
だとすれば首なしライダーが襲ってきたのは、生前は暴走族か何かで、抗争でもしていたのかもしれないな。
「平定は返り血で真っ赤になったネグリジェ姿で、まさにクラゲのように浮遊しているという――」
「真っ赤? 最近目撃されてたのって、真っ白い姿なんじゃないのか?」
「いいところに気づいたね! 流石、ボクの助手だよ!」
「楽しそうなとこ悪いが、ここで長話してると通りがかった車から見られそうだ」
流石に制服姿じゃなく私服だが、目撃はされたくない。
今日もタクシーで来たが、流石にここに横づけはせず、少し歩いてきた。
ちなみに、前回と同じおじさんだったので、うすうす感づかれてはいたが。
それでも、高校生としては世間体というものがある。
しかも、俺は白のパーカーに黒のパンツというなんの変哲もない服だからいいが、三色団子は私服の上に白衣を着た更に上に布団を着てるからな……。
目立つことこの上ないし、即特定されるだろう。
布団や白衣がなければ、白のブラウスと黒のコルセットスカート――童貞を殺す服と揶揄されるタイプの服だが、なんでも、単に敬愛するアインシュタインの写真が白黒だったからモノトーンの服が好きらしい――が良く似合っているだけに勿体ない。
「とりあえず中に入らないか?」
「それもそうだね。歩きながら説明しようか」
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