第26話 傷つける嘘と、守るための嘘
「ちょっ…落ち着け‼急に手を引っ張ったと思ったら…いきなりどうした?」
「良いから良いから。リビングは確かに人の目もあるから、素直になれないんでしょ?私の部屋だったら大丈夫だよ。」
「まぁ人の目はないけどさ…流石に恋人の家にいってまで、寝るってのはどうかと思うよ。というかすごい眠いわけじゃないって言ったよね?」
「う〜ん…そうかな?」
「そうだよ。だから、寝るよりも一緒に何かしよ?その方がいい思い出にもなると思うよ。」
俺は彼女に突如手を引っ張られ、驚愕に見舞われながらも必死に冷静を保っていた。
彼女が俺を見つめる視線は、何か嫌なものを感じるほどだった。
「落ち着いて。ね?」
「…分かった。」
「ふぅ…良かった。落ち着いてくれて。」
「別に私はいつも落ち着いてるよ?まぁちょっと変な時もあるけど…」
「ふふっ…」
普通に笑ってしまった。演技でもなく自然とだ。
彼女の何気ないその仕草が少しだけ…ほんの少しだけ、あの日の事を忘れさせてくれた。
「ちょっと〜笑わないでよ‼」
「ごめんごめん‼」
「もぉ〜あっそうだ‼もうお昼の時間だし、一緒に外食しにいかない?」
「えっ…大丈夫なのか?妹さんとか…」
「ん?あぁ…あの子なら大丈夫よ。確かに心配ではあるけど、今はちゃんと安静にしてるし、特に心配してないわ。」
「そうなんだ…」
「あっ後、妹さんじゃなくて桜花って名前があるからちゃんと名前で呼んであげて?」
お互いほとんど面識がないのに…いきなり名前で呼ばれるとか恐怖じゃないか?
というか急に名前を呼ばれたら怖いでしょ…そんな事をされたらむしろ嫌だと思うんだけど。
「急に名前を呼ばれるのは、抵抗あるだろうからそれはぼちぼちかな。急に名前を呼ばれた上に話し始められたら警戒されちゃうよ。」
「う〜んそうかな?まぁ和真くんがそう思うなら、それでも良いよ。」
「分かったよ。まぁいろいろと考えておくよ。」
「ふふ‼ねぇねぇ、一つ聞きたいんだけどさ…私ってどう思う?」
「急にどうしたの?」
「急にこんな事聞かれても困るだろうけど、真剣に答えてほしいの。私の事どう思ってるのか。」
彼女が聞いてるのは彼女の容姿のことなのか…それとも、俺が彼女のことをどう思っているのかなのか…どっちなんだ?
「そうだね…俺が美奈に感じてる事を言えば良いのかな?それとも容姿について言及すれば良いのかな?」
「私に感じてることでお願い。容姿も含めていろいろと遠慮なく言ってくれていいから。」
「急に言われてもなぁ…正直そこまで不満はないよ。まぁ全てを肯定するって言うわけじゃないけど、妥協してる部分はあるかな。」
「そっか…」
「一応本音で言ったんだけど…本音じゃないほうが良かった?」
「そんな事ないの。私も貴方に思ってることはあるから、お互いどんな事を考えてるのかなって思って…」
「なるほど。さっきも言ったけど、お互いに妥協してる部分はあると思うんだ。というか全てが一致する人なんてこの世にはいないと思う。それを実現できるとしたら、自分のコピーだけじゃないかな。」
「そのとおりだね‼自分と全てが同じ存在くらいじゃなきゃ、その場合は無理だよね。」
さっきの言葉は誰かからの受け売りだ。
『恋愛において完璧を求めることは悪くはない。ただ、お互い妥協しなければ付き合うこと、ましてや夫婦のようになることは不可能だ。』という話しだ。
ここで言う妥協が俺に当てはまっているのかはわからないけど、俺は嘘告だと知った上で彼女と付き合っている。
彼女にとって、俺は嘘告に気づけなかった存在だと頭の片隅にあるだろう。
そんな彼女も、当時は全く他人と交流がなかった俺と付き合うために『罰ゲームのせいだから。』とか、『たったの三ヶ月だ。』と考えているが故に俺と一時的に付き合うという決断に至ったのだと個人的には思う。
「まぁともかく、俺は美奈の事を嫌いになったわけじゃないし、今後もよっぽどの事がない限り、そうなることはないかな。」
「よっぽどのことって?」
「ん?そうだなぁ…これはあくまで例えばの話になるんだけど、いじめをしていたり他の人に迷惑をかけるような事とかかな。まぁそんな事ありえないんだけどさ。他にも嘘つかれるのは嫌かな。」
「そっか〜」
俺は少し遠回しだが、嘘告の事を脳裏にちらつかせることに成功したんじゃないかと思う。
俺自身、相当な大嘘憑きなのにこんな事良く言えたもんだと自分でも思う。
でも嘘と言っても傷つけるのではなく、自分の事を守るための嘘なら…良いんじゃないかとも思う。
作者の聖羅です!!
26話目をお読みくださりありがとうございます!!
次の投稿は明日の24:15となります。
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