第38話
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辺りには私の雷に打たれた者どもが、手足を痙攣させながら地べたに這いつくばっている。
死んでいる者はいない……はずだ。火傷や鼓膜などに傷がある可能性はあるかもしれないけれど。
私は立っている者がいなくなった広場を悠然と歩む。
うめき声や怨嗟も小さく聞こえるが、構っている時間はなかった。
そして王城の門へたどり着く。唯一無事だった門番の兵士が、私の顔を見て尻餅を着いた。
……失礼な、化け物を見るような顔をして。
本当の化け物ナルカミは、今も王都上空で暴れているというのに。
「ねえ、貴方。ここ、開けてくれない?」
「ヒッ!?」
私が門番に語りかけると、彼は尻餅をついたまま後ずさった。
ここまで怯えられると若干傷つく。敵対しているのに、かなり気を遣って優しくしているつもりなんだけれど。
「この場には貴方しか無事な人はいないでしょう? ひとりでも私に立ち向かうというなら止めはしないけれど、素直に門を通らせてくれれば貴方個人に私は何もしないわ」
無駄に戦いたいわけではないため、なるべく説得を試みる。彼ら個人に恨みはないのだし。
私の敵はあくまで王家だ。
邪魔をされなければ他の者はどうでもいい。
しかし、私の言葉に彼は明確に首を横に振った。
おや、と思う。門番とはこれほどに忠義と勇気に溢れる者たちだったのかと感心する。見かけに反してなかなか気骨のある人物のようだ——
「こ、この城門は自分ひとりでは開けられないのです。重量的に、男三人はいないと開閉できません」
と、思ったら違ったようだ。
物理的にひとりでは開けられないらしい。左右に目を配っても、やはり彼以外に意識のある者はいなかった。
少しやりすぎたかもしれない。
私はほんの少しだけ反省した。
「……なら、私が勝手に通るわ。それなら文句はないでしょう?」
私は彼に告げると、城門へと向き直った。
予定変更だ。開けてくれないのであれば、力尽くで押し通るまで。
私は左手で門に触れると、半身になって右半身を引き絞る。
右手に魔力を集中させていく。そのまま充電するように力を溜めると、拳に雷が宿り始める。充分に魔力が溜まっているのを確認すると、私は何の躊躇いもなく右拳を城門へ叩きつけた。
電磁圧を衝撃としてぶつける、破壊力重視の雷魔導師としての技だ。
放雷と爆音が広場に轟く。
次いで炸裂音が耳をつんざき、破壊による突風が吹き荒れた。
乾坤一擲。
私の魔力のこもった渾身の右ストレートは、堅固な城門の一部を抉り取るように粉砕していた。
「そ、そんな馬鹿な……。上位貴族の魔法でも砕けない門が……」
すぐ横で見ていた門番が、ガタガタと震えて自失している。
そんなゴリラを見るような目つきで見ないでほしい。一応は私も元貴族の乙女なのだから。
私は軽く右手をぶらぶらと振りながら門を潜り抜ける。
ここからがいよいよ本番だ。
▪️▪️▪️
勝手知ったる他人の家、とまでは言わないが王妃教育で頻繁に訪れた過去の経験から、王城で迷うことはなかった。
ちらほらと警備兵を見かけるが、怖気づいたのか遠巻きに私を眺めるだけで一向に捕縛しようとはしてこない。
これであれば門番の彼の方がよほど勇敢だっただろう。
侍女なども散見されるが、私の顔を見るなり悲鳴を上げて逃げていく。
それにしても、私が通ったころに比べると人の少なさに違和感がある。
もちろん、上空のナルカミに対応しているのもあるだろう。しかし、不審者でしかない私が堂々と城内を目的地まで進んでいけるなど、いくらなんでも手薄すぎはしないだろうか。
「お、応援を呼べ!」
「門番どもは何をやっていたのだ!」
ここまで来ても、他責思考な人間が見えるのに眉を寄せてしまう。
このような人物らが重責のある王城の警備に当たっていること自体が、王国の斜陽を感じさせる。
この程度の人間を構う必要はないだろう。私はへっぴり腰でおよび腰な者たちを尻目に、どんどんと足を速めた。
「アルバート王子殿下を呼べ!」
「馬鹿言うな、殿下は今、守護竜さまと謁見中だ!」
「空の化け物もなんとかしろ!」
「誰かあいつを止めろ!」
散り散りになる兵士たちに、私は半ば呆れる。全くと言っていいほど統率が取れていなかった。
これでは素通りと変わらない。こいつら何のためにいるんだろうか。
そうこうしている内に、城の内部まで入り込んでいく。
貴族らしき者たちも徐々に見え始めてきた。
「なぜこんな場所まで出来損ないに踏み込まれている!? 警備は何をしておったのだ!」
「これだから魔法も使えん下民を兵士にしても無駄だと言うのに……」
「相手は出来損ないだ。我らの魔法を防ぐ術などあるまいて」
ぶつくさと言いながら、貴族連中が私に構えを取る。私は一旦足を止めると、彼らに関しては真正面から打ち破ることに決めた。
彼らのような者たちが、王国を歪めた起因のひとつだ。
だからといって恨みがあるわけではない。単に舐められたことにムカついたからだ。
「風よ、舞い踊り敵を切り裂け!」
「火よ、我が敵を焼き尽くせ!」
短い詠唱の攻撃魔法。人を傷つけるには充分な魔法だ。
しかし、魔導師に届かせるにはぬるすぎる。
私は電流で磁界を形成すると、二つの魔法を軌道ごとねじ曲げた。
強力な磁場によって、火と風を逆に撃ち返す。それを呆然と見ていた貴族二人は、慌てて防御魔法で自らの魔法を防いでいた。
「な、何をした貴様!」
「魔法を跳ね返しただと!?」
驚く二人に、私は容赦なく畳みかける。彼らに都合よく待ってやる理由などない。
だいたい、屋内で火魔法を使うなんて何考えてるんだか。
私は指先から極細の電流を放出する。
二人はそれ以上声もあげられずに床に倒れた。
他愛ない。
私は息を整えると、彼らが背後に守っていた扉を見る。
玉座の間——アルバート王子たちがいるであろう目的地である。
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