死談〜ともしびついえて〜

阿炎快空

死談

 さて——今宵お話しますのは、鶴泉南雲つるみなぐも、人生最後の物語です。


 ご存じない方の為に説明いたしますと、鶴泉南雲は私と同じ怪談師です。

 鶴屋南北つるやなんぼく小泉八雲こいずみやくもにあやかり、その性と名からそれぞれ一文字ずつ取って鶴泉南雲。

 彼はただ怪談を語るだけではなく、不思議な術で自らの語った怪異——即ち、南雲の言うところのあやかし達を操ることができました。その力を活かし、南雲は本業の傍ら、あやかし退治なども請け負っていました。


 逸話は数多く残っていますが、どんな物語にもいずれ終わりはやってくるもの。それは南雲といえども例外ではありません。

 どうやら使役することができるあやかしにも限りというものがあるようで。その限りを超えてなお無理をし続けた結果、まだ四十手前である南雲の髪の毛は雪のような白に染まり、体調を崩すことも多くなりました。

 やがて南雲は、たちの悪い風邪をこじらせ肺炎になり、床に伏せることとなりました。


 南雲には一人、若い女性の弟子がおりました。出会った当初は「僕は弟子を取れるような立場ではありません」などとつれない態度をとっていた南雲でしたが、その頃には既に、彼女を自らの一番弟子と認めていました。

 その弟子も、間が悪く用事の為に遠出をしており、屋敷に居るのは南雲と近所の医者のみ。

 医者はかわやへいくため席を外し、部屋には南雲一人が残されました。


(病の為、死に近づき過ぎているからか……はたまた体が怪談に呑まれ、自らがあやかしに近づき過ぎたからか……もはや、体に感覚がない……熱さも、寒さも感じない……僕は……僕は、どうやら本当に死ぬようですね……)


 朦朧とする意識の中、覚悟を決めた南雲の枕元で、誰かが腰を下ろす気配がしました。

 医者が戻ってきたか、もしくは、近所の川から、河童がキュウリでもねだりにやってきたのか——そう思った南雲でしたが。


「ひっひっひっ……お前さん、まあ、そう死に急ぐなよ」

「え?」


 見れば、そこには黒い襤褸ぼろを纏った、えらく不吉な男が座っていました。


「……誰です、あなたは?」

「俺かい?俺はなぁ、死神だよ」

「死神?」

 ぎょっとして聞き返す南雲に、「そうさぁ」と死神が答えます。

「あんたみたいな、今際の際の人間の枕元に現れる死神様だぁ」

「なるほど……今まで、鬼やら天狗やらいろいろ相手取ってはきましたが、死神に会うのは初めてですよ」

「ひっひっひっ……そいつは光栄だねえ」


「ところで——ゴホッ、ゴホッ」

 苦しげに咳き込みながら、南雲は言いました。

「——先ほど『死に急ぐな』と言っていましたが」

「ああ、そうだった。お前さん、もう少し生きたくはないかい?」

「そうですね……生きられるなら、生きてみたいですが……」

「そうかい、そうかい。そうこなくっちゃあな」


 やけに上機嫌な死神の様子を怪訝に思い、南雲は眉根を寄せました。

「見逃してくれるんですか?」

「場合によっちゃあな」

 意地悪く笑って、死神が続けます。

「お前さんには、俺の暇つぶしに付き合ってもらう」

「暇つぶし?」

「ああ。寿命をかけた、ちょっとした勝負よ」

「勝負、ですか……ゴホッ、ゴホッ……囲碁か将棋でも指そうってんですか?」

「そういう時もなくはないが、俺は長考ちょうこうするたちでね。残念ながら、お前さんにはもう時間がない。ここは一つ、古典的なやり方でいこうか——周りを見な」


 言われて初めて、南雲は自身が、小舟に横たわっているのに気が付きました。

 起き上がって辺りを見渡すと、そこはどうやら、鍾乳洞の中に広がる湖のようでした。

 水面のあちこちには、小さな島のように、沢山の岩が突き出しています。その上には無数の蝋燭が並び、洞窟内を明るく照らしていました。


「ここは、一体……?」

「お前さんは今、肉体から魂が抜け出た状態だ。体調も楽になっただろう?」

 言われてみれば、なるほど、確かにその通りでした。あれほど苦しんでいたのが、まるで嘘のようです。


「さて、と。ここからが本番だ。お前さん、どうやら怪談師らしいが——落語は好きかい?」

「まあ、人並みには」

 答えながら、南雲は辺りを見渡しました。

「とすると、あの蝋燭はやはり、『死神』のはなしに出てくる通りの?」

「おうよ。人間の寿命の蝋燭さ」


 その言葉とほぼ同時に、小舟は自然と、とある岩のすぐ近くで止まりました。

 死神は、小舟から岩の足場へひょいっと飛び移りました。   

「ほら、ついて来な」


 岩の上にはある程度の間隔を置いて、やはり沢山の蝋燭が並んでいます。

 そんな中一本だけ、今にも燃え尽きてしまいそうな短い蝋燭がありました。


「わかるか?こいつがお前の寿命だ」

「それで?落語では確か、新しい蝋燭に火を移すんでしたか?」

「ひっひっひっ……話が早いねえ。そうとも。ほら、こいつが代わりの蝋燭だ」

 死神は懐から真新しい蝋燭を取り出し、南雲に手渡しました。

「これに上手く火を移せれば、お前さんの勝ち。寿命を延ばしてやる。しかし、失敗したら、俺の勝ち。俺が勝ったら——わかるよなあ?」

「なるほど。ぐずぐずしてはいられませんね」


 では早速と、火を移し替えようとする南雲でしたが、

「おおっと、待ちな」

 死神が、それを止めて言いました。

「このままじゃあつまらないだろ?お前さんはなかなか肝も据わってそうだし、手が震えることもなさそうだ。だから——こうする」


 そう言って、死神がニヤリと笑った次の瞬間——南雲は再び、激しく咳き込み始めました。

 それだけではありません。目の前はぼんやりと霞み、意識は朦朧とし始めます。


「ゴホッ、ゴホッ——こ、これは、一体……!?」

「そいつはお前さんの肉体の記憶だ。慣れたもんだろ?」

「こ、こんな状態で、火を移し替えろと……?」

「泣き言を言っている暇はねえぜぇ?ほら、早くしないと消えちまうぞぉ?」

「わかってます……わかってますよ……」


 必死に意識を保ちながら、南雲は炎へと蝋燭を近づけました。

「おいおい、大丈夫か?手がぷるぷる震えてるぜ」

「誰のせいだと……」

「ひっひっひっ……そう睨むなって。ああ、そうだ、そうだ」

 南雲を指差し、死神が言います。

「お前さん、火を操るあやかしが仲間にいるだろ?」

「よく、ご存じで……」

「忠告しておくがなあ、そいつの力で火をつけるなんてインチキは無しだぜ?第一、そんなことしても意味がねえ。お前さんの命は、手に持った蝋燭でもなければ、震えている体でもない。お前さんの命は、そのちろちろ燃えている火だ。いいな?」


 文句を言っている暇はありません。今にも命の灯は消えそうになっているのです。

「ええ……わかりましたよ……」

「ひっひっひっ……早くしないと消えちゃうよぉ?」

五月蠅うるさいですねえ……」

 どこからか吹いてくる風によって、火がゆらゆら、ゆらゆらと揺れています。

「震えると消えるよぉ……消えるよぉ……消えるよぉ……」

 荒く息をつく南雲の耳元で、死神が囁きます。


「消えると——死ぬよ?」


 並みの精神力の人間であれば、とても火を移し替えることなどできなかったでしょう。

 しかし、流石は数々の修羅場を潜ってきた鶴泉南雲です。

「——よし、ついた!」


 手にした蝋燭についた火を見つめ、南雲がほっと息をついたその時でした。


「——ゴホッ——ゴホッ、ゴホッ!?」


 突然の咳によって、せっかくついた火は掻き消えてしまいました。

 南雲は大きく眼を見開くと、そのままゆっくり、冷たく硬い岩の上へ倒れこみました。

 手から離れた蝋燭はころころと転がり、水の中へぽちゃんと落ちました。


「ひっひっひっ……死んだか……」

 死神はくるりと背を向けると、満足げに呟きました。

「惜しかったねぇ……まあ、これも天命と思って諦めな……」

「——いいえ……まだです」

「何いっ!?」


 死神が驚いて振り向くと、死んだとばかり思っていた南雲が、よいしょと上体を起こしていました。

「ああ、死ぬかと思った」

「そんな馬鹿な……!」

 そう言えば消えかけの蝋燭を確認していなかったと、死神は慌てて南雲の蝋燭に目をやりますが、火はしっかりと消えています。


「お、お前さん、どうして……」

 岩の上に胡坐をかきながら、南雲が答えます。

「蝋燭の火は消える瞬間が一番激しく燃えると言いますが——上手く燃え移ってくれてよかった」

 南雲は着物の袖を、見えやすいように掲げました。見れば確かに、袖の端が僅かながらちりちりと燃えているではありませんか。


「僕の命は、蝋燭でも、この体でもない。本質はあくまで、この火——そうでしたね?なるほど、燃え広がるにつれ、どんどん体調がよくなっていきます」

「いや、しかし——熱くはねえのかい?」

「幸い、今の僕は熱さも寒さも感じない体でして」

「だからってよ——まあ、いいや」

 気を取り直し、死神が続けます。

「しかし、代えの蝋燭は水の中だぜ?もう一本おまけでくれてやるほど、俺はお人好しじゃあねえぞ。お前さん、一体その状況からどうしようってんだ?」

「どうもしません」

「あん?」

「僕はただここで、じっと座り続けるだけです」

 その言葉の通り、南雲の体を徐々に徐々に、炎が包み込んでいきます。


「座るだけって——そんなの、ちょっとばかしの時間稼ぎにしかならねえぞ?」

「いいんですよ、それで。僕は何も、この先何十年も生きたいわけではありません。予想では、そろそろ帰ってくるはずなんですがね」

「帰ってくるって——誰が、何処にだ?」

 その問いかけに、南雲が答えるより早く——


「師匠!師匠!」


 ——どこからか、女性の声が聴こえてきました。

 ふと気が付くと、南雲は元居た部屋で、布団に寝ていました。

 枕元に目をやると、そこには死神とは似ても似つかぬ、美しい一番弟子が座っていました。


「ああ……来ましたか、。遅かったですね」

「師匠!しっかりしてください!師匠!」

「そんなに怒鳴らなくても聴こえますよ……貴女が帰って来るのを待っていたんです……ちゃんとお別れが言いたくてね……」

「そんな、お別れなんて言わないでください!」

 目に涙を浮かべる愛弟子に、南雲は言いました。

「ゑい……本当に、本当に立派になりましたね……最初はどこの馬の骨だかわからない田舎娘だと思っていましたが、今の貴女は、私の自慢の一番弟子だ。思えば、貴女には厳しくし過ぎたかもしれません。嗚呼、こんなことなら、もっと早くに弟子入りを許していれば——……」




「——はなぶさ君」

 突然話を遮られた瑞恵はむう、と頬を膨らませて南雲を睨んだ。

「何ですか、兄様あにさま?今、いいところなんですけど」

 ここは南雲の屋敷である。

 雰囲気づくりの為に電気は消され、燭台に置かれた蝋燭の炎が、締め切られた和室をぼんやりと照らしていた。

 南雲は座布団から立ち上がると、天井から下がった紐を引き、部屋の電気をつけた。


「練習の成果を見てほしいというので、黙って聴いていましたが——何か僕に、遠回

しに言いたいことでも?」

「えー?別に、そんなことないですよお。まあ、兄様から教わった話に、ちょこおっと私流の脚色は加えてますけどお」

「脚色、ねえ。お話の中の南雲さんですが——あれは、僕の真似ですか?」

「違いますよお。あくまで私の想像の中の、先代・鶴泉南雲ですう」

「まあ、そういう事にしておきましょう」


 にしてもと、座布団の上で正座を崩しながら瑞恵が尋ねた。

「襲名制度、っていうんですか?そういうの、怪談師にもあるんですね」

「別にそういう訳ではありませんがね。師匠は先代の芸に心底惚れこんでいたらしく、頼み込んで鶴泉の名を襲名したようです」

「なるほど。それで、〝鶴泉ゑい〟」

 ええと南雲が頷く。

「そして、弟子の僕には南雲の名を授けてくれた。師匠の話では、僕と先代はどことなく似ている部分が多いようで。よく冗談めかして『あの厳しかった師匠を呼び捨てにできるなんて気分がいい』などと言っていました。

「ふうん——あれ!?」

 瑞恵は突然立ち上がると、南雲に詰め寄った。


「兄様!もし私が正式に弟子になったとしたら、やっぱり、鶴泉瑞恵になるんですか!?」

 そんな未来が起こり得るかどうかは別として、と前置きしつつ、南雲が答える。

「別に、英のままでいいんじゃないですか?無理に鶴泉を名乗らねばならない決まりはありません」

「名乗りたい場合は?」

「止めはしませんがね。そんなことに気を回すよりも、まずはきちんと実力を——」

「あ、それじゃあ、私が二代目〝鶴泉ゑい〟を名乗るのはどうですか!?」

「何が『それじゃあ』なのかわかりません」

「ほら!はなぶさって、漢字だと英国の英ですし」

「これ以上話をややこしくしないでください」


 まあ、脚色部分はともかくとして、と南雲が顎をさする。

「——全体的には、良かったんじゃないですか?」

「本当ですか!?やったあ!」

「先代の苦しそうな様子なんかは、なかなかレアリテがあったと思いますよ」

「えへへ——あっ、そうそう」

 ポンと手を叩き、瑞恵が尋ねる。

「この話って、本当の本当に実話なんですか?」

「少なくとも、師匠はそう言っていましたね。今際の際に、先代が話して聞かせてくれたそうです。『今ね、死神に一泡吹かせてやったんですよ』って。無論、先代の冗談の可能性もありますが」


 ふうんと呟き、瑞恵が腕を組む。

「死神かあ……個人的には、鎌を持った骸骨を思い浮かべちゃいますけど」

「それは西洋におけるイメエジですね。まあ、落語の『死神』も、そもそもはグリム童話の『死神の名付け親』という話を、落語家の初代・三遊亭さんゆうてい圓朝えんちょうが翻案したもので——ん?」

「どうしました?」

 きょとんとする瑞恵に、南雲が言う。

「……何か、屋敷に入ってきましたね」

「えっ!?」


 部屋に緊張が走った、次の瞬間――

「クエ――――ッ!」

 玄関の方から、大きな鳴き声が響き渡った。

「あーっ!あの河童、また勝手に上がり込んで!」

 瑞恵がすかさず襖を開け、玄関へと駆けていく。

「ちょっとお!泥だらけじゃない!」

「クエーッ」

「ほら、お風呂場ついてきて!」

「クエッ」


「やれやれ……」

 南雲は一人苦笑すると、紐を引いて電気を消した。

 明かりが消えて初めて、南雲は蝋燭の火を消し忘れていたことに気づいた。

 あぶないあぶないと、燭台を手に取り、吹き消そうとしたその時である。


 ——ひっひっひ……


 ひどくしゃがれた、男の笑い声だった。

 南雲は動きを止めると、ゆっくりと部屋の片隅——蝋燭の明かりが届かぬ暗がりを見つめた。

「……これはこれは。『噂をすれば影がさす』と言いますが——珍しいお客人だ」

 南雲がそう言うと、闇の中から、黒い襤褸を纏った不吉な雰囲気の男が、ぬうっと姿を現した。


「なあに、ついさっき、そこの家で、寝たきりだった爺さんがおっんだんだがよ。さて帰ろうかと思ったら、随分と懐かしい話をしてるじゃあねえか」

「河童の気配に紛れて気が付きませんでしたよ。お茶でも飲んでいきますか?」

「ひっひっひっ……お構いなく」

 にしてもと、興味深そうに死神が尋ねる。


「お前さん、俺が怖くねえのかい?」

「そうですねえ。死神などと言うとなんだか仰々しいですが——あやかしには慣れていますので」

「へえ?つまり、俺もあやかしの一種だと?」

「ええ。死に対する恐怖や、生への執着が、死神というかたちで顕在化した存在——それがあなただ。そうした思いは世界中の誰もが持っていますからね。あなたは世界を股にかけ、その国の文化に根差した姿で現れる——どうです、この解釈は?」

「ひっひっひっ……先代と似て、理屈っぽい野郎だ。いいんじゃねえか、お前さんの好きなように思っておけば。〝薔薇ばらという花の名前を変えても、香りは変わらない〟ってなあ」


 しかし、なるほどねえと死神が言う。

「お前さんの蝋燭は、随分と面白い燃え方をしてやがる」

「面白い、ですか。至って平凡な、つまらない人間ですよ、僕は」

「ひっひっひっ……自分のことってのは、案外自分じゃわからねえもんさ」

「そんなものですか」

「そうさぁ。お前さんからはどうにも、死の臭いがぷんぷんすらあ」

「……ほう?」 

 死神の言葉に、南雲は僅かに眉をひそめた。


「これでも、健康には気を使っているつもりですが——」

「そういうことじゃねえよ」

 南雲の言葉を遮り、死神が言う。

「すぐに消えちまいそうにも見える一方で、しぶとく燃え続けそうにも見える……面白いねえ……見ていて飽きねえ」

「……」

「ひっひっひっ……なあんてな」

 ちょいと脅かし過ぎちまったかと、死神は笑った。

「極端な話、人間誰しも、いつ死ぬかなんてわからねえ。どれだけ立派な蝋燭の炎だろうと、いたずらに吹いた風で呆気なく消えちまうなんてこともある。なのに、どいつもこいつも、自分だけは大丈夫だと思ってやがるんだ……」


 そう言うと死神は、南雲にくるりと背を向ける。

「ま、何にせよ、あんたの番は今夜じゃねえ。縁があったら、また会おうぜ」

 そうして再び、薄暗い部屋の隅へと戻っていき——闇へ溶けた。

 来た時と同じ、不吉な笑い声を残して。

 

 ——あばよぉ……ひっひっひっ……





 掛け時計の音が、和室の中に静かに響く。

 そんな静寂を打ち破るように、ドタドタと足音がして――

「ったぐ、あの河童、手間とらせで!——あれ、兄様?」

 開いた襖から、瑞恵がひょいっと顔を覗かせた。先ほどまでの興奮のせいか、頭には猫の耳が生えてしまっている。

「真っ暗な部屋で、一人で何してるんですか?」

「いえ、何でもありません」

 南雲は僅かに燭台を掲げ、掛け時計の針に目をやった。

「……すっかりいい時間になってしまいましたね。蕎麦でも頼みましょうか」

「やったあ!私、狸蕎麦がいいです!」

「河童には、キュウリでもあげておいてください」

「はあい!」


 瑞恵が去り、南雲は再び、部屋に一人となった。

 死神の去っていった闇を見つめ、南雲が呟く。


「愛弟子と、そして自らの使役してきたあやかし達に看取られつつ、南雲は静かに息を引き取りました」

 それは、先ほどまで瑞恵が語っていた話の、結末部分であった。

「最後の瞬間、南雲は思いました。人生は所詮、蝋燭の火。あっという間に消えてしまう、儚い灯火。しかしそれでも——美しい輝きであったと」


 そこまで言って。

 南雲はふう——と蝋燭の火を吹き消した。

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