第二章

成長

 鍛え直し。

 オウガストくんとの戦闘の後、僕は数年単位で自らを鍛え直した。

 そして、しっかりとオウガストくんをデコピンだけで倒せるまでの強さを得て見せた。

 これでとりあえず最低限の強さは手に入れられただろう。

 まだまだ武の道の頂は相当遠いが、自分の中に閉じこもって自分を鍛え続けなければならないようなところではなくなっただろう。


「そんなに自分の手を眺めてどうしたの?」


「ん?なんでもないよ。レーヌ」


 オウガストくんとの激闘から十年。

 五歳から十五歳へと成長したレーヌが僕へと声をかけてくる。

 レーヌもしっかりと美しく成長してくれた。

 それに、僕の修練に合わせて彼女も自分を鍛えていたので普通にオウガストくんよりもちょっとだけ強いレベルの実力者に仕上がっている。


 この十年間で僕たち二人の生活はそこまで大きく変わったわけではない。

 いつも通りスラムで暮らしている。

 強いていうのなら、十年前に出会ったリーナがいつの間にか、国の英雄として王都を凱旋しているのをたまに見るようになったくらいだ。

 どうやら、あの後彼女は既にいた皇太子であった自分の父親から権力を奪い取り、歴代最年少の皇太子になってしまったらしい。


「猪のスープが出来たので食べますよ」


 あぁ、でもそうだ。

 僕たちの食糧事情はかなり改善されている。

 圧倒的な力で獣を狩るようになかったからだ。これによって残飯を漁らなくとも満足出来る食事にありつくことができるようになっている。

 

「あぁ、うん。そうだね」


「最近は静かだし、二人で一緒に過ごせるね」


「ん?あぁ、そうだね」


 猪の肉を水の入った鍋に入れて煮込んだだけという豪快な料理をテーブルの置くレーヌの対面の席に座る僕は彼女の言葉に頷く。

 

 そういえば、昔はちょくちょく見かけていた自分の家の近くに住んでいたスラムの住人はいつの間にか見なくなったな。

 彼らは既にスラムから抜け出せたのかな。


「それじゃあ、食べましょうか」


「うん。そうだね。いただきます」


「いただきます」

 

 なんてことはないただの一日。

 それを僕とレーヌは今日も二人で送るのだった。

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