陽炎
月が隠れ、次に上がるのは太陽である。
「……あっつっ!?」
僕へと迫っていたオウガストくん陽炎に焦がれ、慌てて距離を取っていく。
「……ま、待て……なんだ、その力は」
そして、距離を取ったオウガストくんはそのまま困惑の声を上げる。
その視線の先にあるのは僕を覆っている白き炎、陽炎である。月光を見せた時よりもその反応は劇的であった。
「陽炎。魔力を極めれば誰でも疲れると思うよ?」
陽炎。
こいつは月光の力とは反対の力である。
月光とは違って遠距離に飛ばせない代わりに、火力が大幅に上昇したのが陽炎となる。
「そ、そんなわけアルカぁァァァァァァアアアアアアアアアアアッ!?」
僕の言葉に対して、オウガストくんは何故か劇的な反応を見せる。
「みんなが魔力操作を真面目にやらないからさ」
種族単位で脳みそまで筋肉に染まっている異世界人がダメダメなだけで誰であってもこれくらいであれば使えるだろう。
「そ、そんなわけが、そんなわけがあるわけがないだろっ!あまり我らを挑発するのもいい加減にしろよっ!」
だが、それでもオウガストくんは僕に対して激昂を示す。
「あれぇ?」
別に僕も使えたのだし、みんなも使えるはずなのだけど。
僕なんて実際はスラムで捨てられていた餓鬼に過ぎないのだし……僕に出来て周りの人が出来ないというのは道理に合わないだろう。
「まぁ、いいや」
可能性を信じて戦うものにこそ神が微笑む。
僕は魔力の上に何かがあると信じ、彼は魔力でもって肉体を強化する先に何かを見た。ただそれだけというわけだろう。
しっかりと苦戦している身であまり偉そうなことを言う者ではない。
「……はぁ、はぁ、はぁ……餓鬼に踊られ過ぎだな。この俺が」
オウガストくんは言葉を吐き捨てると共に、その雰囲気が一変する。
どこか、重ぐるしいものへと。
「案ずるな。元より世界は我が手の平の上」
それを受け、僕もロールプレイへと移行する。
「人は何処までも我の手から離れられず、手の平の上で踊るだけである」
「ほざけ、餓鬼。世界を支配するは我らが教会よ……貴様は我らの手で捉えさせてもらおう。重要な被検体になるのでな」
随分と強そうなオーラを出しているオウガストくんは静かに僕の方へと近寄ってくる。
「滑稽だな。凡夫よ」
それに対して、僕は言葉を返す。
「王たる我と会話したのだ。既に十分だろう?」
ごめんね?オウガストくん。
君と会話している間に僕は君を殺せるだけの準備を整えてしまった後なんだ。
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