月光

 僕は生まれてこの方、ずっと魔力のことだけを考えて生きてきた───力を手に入れるために。

 魔力を好きに操って、操って、操って。

 果てには自分の魔力を圧縮した先に、ここ最近の僕はとある魔力の、一つの本質へと触れてしまっていた。

 魔力をただ、ひたすらに圧縮した先にあった二つの力。


「月光」


 己の背より勝手に生えている黒い翼をはためかせる僕は自分の魔力を圧縮して、圧縮して、その先にある本質が二つの力。

 その一つである『月光』を僕は解放する。

 

「……ッ!?」


 闇夜の中で月に照らされながら僕が広げている黒色の翼。

 そこから幾重もの紫色の閃光が迸り、自分の前にいる暖簾男Ⅱを狙いうちしていく。


「ぐっ!?」


「脆い」


 僕の閃光に対して、慌てて膨大な魔力でもって何もない宙に盾を顕現させた暖簾男Ⅱではあるが、そんなもの無意味である。

 僕の閃光は魔力由来でなく月光由来のもの。

 たかが魔力風情に防げるようなものではない。


「ちぃっ!貴様ッ!その力をどこでぇ!」


 月光に晒され、逃げ惑う暖簾男Ⅱは僕に向けて声を張り上げる。


「おっ?」


 僕は目の前の暖簾男Ⅱが言葉を発した


「喋れたのかよ、暖簾男Ⅱ」


「な、何だその呼び方は!こちらを馬鹿にしているのか!……まぁ、良い。ひとまず、下らぬ前哨戦は終わりだ」


 僕の放った呼び名に対して激高し、これまた僕の放った月光を素手で弾き飛ばした暖簾男Ⅱはお遊びは終わりだというお決まりの言葉を口にする。


「俺はオウガスト・ツァンディレ。主天使が九王剣。神の御心のままに」


 その後、暖簾男Ⅱことオウガストくんがノリノリで自分の名乗りを上げる……良い。実に良いじゃないか。

 その名乗り、二つ名……実に素晴らしい。まさか、こんなところで自分の同志がいるとは。 

 ちょっとばかり力を持ったやんちゃ集団のトップに立っているだけで勘違いし、それっぽい二つ名を自分につけてしまった同志が!

 わかる!わかるぞぉ!僕だって、それをやる……やるから!実によくわかるよ!


「我は世界の王。本来あるべき王の帰還に、喝采せよ」


 オウガストくんを勝手に同志認定した僕は、彼の前でこちらもノリノリで名乗りを上げる。


「ほざけ、負け犬……二度、お前が輝くときなど来ない」


「それはどうかな?」


 僕は同志たるオウガストくんの言葉に自分も言葉を返しながら。

 最高の世界を裏から牛耳る支配者っぽいことしている!とテンションを上げながら、僕は自分の元に迫ってくる彼に相対していくのだった。

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