堕天

「誰かは知らないけど、あの怖い人たちには感謝だな」


 とりあえず僕が地下から天井をぶち抜いたことも、うっかり囚われの身となっていたリーナを解放しちゃったことも。

 なんやかんやでうまいこと有耶無耶になってくれそうな雰囲気を感じ取った僕は安堵の感情と共に王城からパクってきたグランドピアノを抱えながら空を飛んでいた。

 なんやかんやでリーナも解放されて嬉しそうだったし、僕も彼女で存分に支配者ムーブ出来たので満足である。

 特に最後の僕がピアノを弾くシーンとか最高だったよね。


「ピアノはカッコいいけど、持ち運ぶのに不便なんだよなぁ。バイオリンとかどこかに落ちてないかな?」


 これでも僕は前世で教養の一環としてピアノとバイオリンを習うよう強制され、そこでかなりの腕前として色々な人から評価されていた。

 自分でも中々にうまいと自画自賛している。演奏するだけでムードは遥かなる上昇である!


「……って、うん?」

 

 そんなことを考えながら夜間飛行していた僕は自分の探知範囲に人影が入ってきたことを敏感に感じ取ってそちらの方へと視線を送る。


「だぁーれ、だ」


 僕はすぐさま地上へと降りてそこにグランドピアノを隠し、隠し。

 それを終えた後に自分を追いかけて下へと降りてきた人影のすぐ背後へと僕は移動し、声をかける。


「……ッ!」


「おっとっ!?」


 声をかけた僕に対して、人影はすぐさま反応し、こちらへと蹴りを一つ。

 その速さに僕は面食らいながらギリギリのところで回避する。


「……思ったよりも、強いな」


 完全に舐めてかかってしまっていた僕は気を引き締め直しながら、距離を取って闇夜の中で相手の方に視線を送る。


「……あれ?同じ奴じゃね?」


 改めて視線を送り、しっかりと相手の姿を確認した僕は今、自分の前にいる奴があの時に戦った暖簾男とまったく同じ姿をしていることに驚愕の声を漏らす。


「まぁ……いいや。それで?僕に何の用?」


 僕は驚きつつも、些末な問題かと斬り捨てて目の前にいる暖簾男Ⅱへと疑問の声を投げかける。


「……おっと」

 

 そんな僕の言葉に暖簾男Ⅱは何も答えることはなく、その代わりとしてこちらに鋭い蹴りを叩き込んでくる。

 それを軽く避けた僕は反撃として男に膝蹴りを一つ。


「……ッ」


 だが、それをしっかりと暖簾男Ⅱは受けて見せる。


「……ふふっ、良いじゃん」


 そんな暖簾男Ⅱを前にして僕は笑みを浮かべる。


「挨拶もなしに、いきなりの攻撃ってことはさ……もう、僕と全力でやる気、ってことで良いんだよね?」


 そして、その後に僕は本格的に暖簾男Ⅱへと殺意を叩きつけるのだった。

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