王女

 牢屋の中で長らく拘束されていた一人の少女は。

 数年ぶりの自由を手にしたその子はたった一つの跳躍だけで地下より地上へと上がってくる。

 少し前にノーラが開けた穴を通って。


「……どういうこと?」

 

 あまりにも長い年月を地下に幽閉されていた少女は久方ぶりに見る地上の様子に困惑する。

 王都の中心地として威容を保っているはずの王城は今や、炎に包まれて動揺と恐怖が広がっている。

 これは先ほど、天を貫いた神が如き力によるものではない。

 もっと、別の何か。


「これねっ」


 その要因はすぐさま見つけた。

 王城の中を我が物顔で闊歩している一体の化け物を見つけた少女は何もない空中を蹴って加速。

 化け物に蹴りを叩き込んで


「……魔力が、スムーズに動く」


 少女の中にあった魔力は異常なまでに膨れ上がっており、また、舐めらかに動いていた。


「これも、あの御方の恩寵か」


 それでもすぐさま過去の自分の感覚とズレた新しい圧倒的な力にもすぐさま適応した彼女はあたりを見渡し始める。

 先ほど、彼女が倒した化け物。

 明らかに人とは違う骨格、黒い肌に背中より生える翼、額より伸びる禍々しい角を持った化け物は何体もおり、王城の中を荒して回っていた。


「何なのかしら?こいつらは」 

 

 少女はまったくもって知らない化け物たちに困惑しながらも王城の中を駆け、次々と化け物を倒していく。

 その果てに、彼女は王城の中でもかなり広い場所へと出てくる。


「あ、貴方は……ッ!」


 そこでは多くの騎士が集まって、化け物の集団と激しくやり合っているところだった。

 少女の姿を騎士たちが捕らえると共に、その一団の中で驚きが広がっていく。

 その場にいるほとんどの騎士が少女を知っていて、その逆もまた然りであった。


「……すぅ。私はエステリーナっ!」


 そんな中で。

 少女は。

 長らく地下に幽閉されていた少女、エステリーナが叫ぶ。

 

「私はアーベント王国が第一王女、エステリーナ・クレーフィ!」


 アーベント王国クレーフィ朝が第一王女たるエステリーナは高らかに己の言葉を告げると共に自身の中にある莫大な魔力を開放させる。

 開放された魔力はあまりにも濃く、強大であったがために彼女の意図もなく勝手に可視化され、闇夜に燃えゆく王城の中でも美しく輝き始めていた。


「私は呪いを克服し、天に見初められたっ!」


 そんな中でエステリーナは言葉を続け、黒い痣の消えた美しい顔を晒しながら道中で拾ってきた剣を掲げる。


「この国に仇なす者は、私が倒す───覚悟」


 そして、その剣を振り下ろすと共に地面を蹴った彼女は化け物たちに突撃するのだった。

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