まず消えたのは音であった。

 剣が振り下ろされると共に爆発的に開放された魔力の濁流は。

 太陽に御座す神を信奉するアイトリア教に仕える剣が一人を呑み込むばかりか、そのまま天井を大きく破壊。

 剣より放出された力の濁流は天までその威力を貫いた。


「……ぁっ」


 人とは思えぬ神が如き圧倒的な力によって破壊が吹き荒れる中、その後方。

 牢屋の中でエステリーナを縛っていた鎖が静かに崩れ去っていく。

 彼女の身を拘束していた鎖は永遠に魔力を吸収するものであり、これをしているものは自分の体内で魔力を練り上げることが不可能となる。

 であるからこそ、魔力さえあれば簡単に人間の限界を超えることのできるこの世界においても拘束具として絶大な力を発揮することができるのだ。


「……すごい」


 完全に開放されると共に絶大な力を見せつけられた少女はただただ呆気に取られた表情で感嘆の声を漏らすことしか出来ない。

 まさに神業。

 圧倒的な力の暴力がそこにあった。


「……やっべぇ」


 そんな中で、この惨状を引き起こした一人の少年、ノーラは体を震わしていた。

 彼は決して、この場の天井を突き破るつもりも、エステリーナの拘束を解き放つつもりもなかった。


「ふっ」


 完全な大やらかし。

 それを前にしてノーラが取った行動はまさしく逃亡であった。

 ノーラはその手にある剣を振るってエステリーナを拘束していた檻を破壊、彼女の身柄を完全に解放させる。


「時は満ちた」


 そして、そのまま何事もなかったかのようにノーラはそのまま立ち去り始まる。


「後は何をするかだ」


 最後に、それっぽいことを残して。


「……あとは、何をするか」


 だがしかし、残された側であるエステリーナはノーラの言葉に強く感情を揺さぶられる。

 彼女は、彼が適当話しているなど知る由もなかった。


「私は、貴方の隣に立ちたい」


 うちなる決意をその身に宿したエステリーナは立ち上がって行動を開始。

 ノーラが天井にまで開けた穴を伝って、エステリーナは地上に向かって突き進むのだった。

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