襲撃

 いきなり天井を突き破って登場した謎の人物。


「我が背後に立つとは」


 想定外の登場に僕は面食らいつつも、その件の人物が地面に降り立って再度動き出すよりも前に僕が動く。

 僕は視線を向けることもなくその腹に蹴りを叩き込んで大きく弾き飛ばす。


「ぐふっ!?」


「存外軽いな」


 自分の蹴りを受けて吹き飛ばされて行ったその人物の方へと僕は優雅に、エレガントに振り返って視線を送る。


「……ふむ」


 僕の蹴りを受けて吹き飛ばされたその人物は自分と同じく黒装束を見に纏っており、その顔には謎の模様が描かれた暖簾みたいなものをつけている。

 何だろう、あの暖簾。クソダサいけど。


「くっ!」


 僕がそんなことを考えている間に再度動き出そうと暖簾男は地面を蹴ろうとする。


「いつ、動いて良いと許可した?」


 その瞬間に僕は魔力によって幾重もの糸を錬成。

 暖簾男の体を動くよりも前に縛って拘束して自由に行動出来ないようにしてやる。


「……ば、馬鹿な……魔力を、可視化させるまでに、練り上げただと?」


 驚くところそこっ!?


「下らぬ遊戯に随分と驚く」


 僕はスラムの餓鬼で周りの技術レベルなど知る由もないが、可視化させるくらいであれば簡単にできる。

 これは、大して力も持っていない賊か何かだな。

 

 本来であれば魔力を可視化させたところではなく、何の触媒も使わず魔力だけで強度を保っているところなんだけど。

 本来は何かに込めることで力を発揮する魔力を、魔力単体だけで力を発揮できるようにするのはかなり苦労したのに。

 一か月くらい飲まず食わずで睡眠もなく、限界を切り詰めた先でようやく得た僕の奥義なのだ。


「すごい……」


「ふっ」


 だけど、後ろからはリーナの感嘆の声が。

 そして、前にいる暖簾男はしっかりと僕への恐怖の感情をもってくれているので良しとしよう。


「我こそが真なる王。あるべき座に座るべき子」


 僕は特に意味もないそれっぽい言葉を羅列しながらゆっくりと体内の魔力を練り上げていく。

 その際に練り上げた


「綺麗……」


 良し、今日は魅せ技全開で行くとしよう!


「少し、王の戯れに付き合え」


 僕は己の手の中に生み出した魔力の剣を振るい、暖簾男を縛っていた糸を切り裂く。


「……ッ!」


 自由になった暖簾男はすぐさま地面を蹴り、僕ではなくリーナを狙って突撃する。


「無視とは酷いではないか」


 無視される形となった僕は彼の進行上に剣を置きながら声をかける。


「……ッ」


 避けることも、かといっても進んだら首が斬れるような絶妙の位置に剣を置いた僕を前にして暖簾男は急ブレーキをかけて止めることしか出来ない。


「遅い」

 

 足を止めた暖簾男は流れるような動きで僕の頭を狙って蹴りを繰り出してくる。

 その靴の先には仕込まれていたであろう鈍く光る短剣が見える。


「剣を持て」


 それを肌に滑らせるように避けた僕は剣を振るでもなく、ただ口を開く。


「……ッ!」


 服の中に仕込んでいたレイピアを取り出した暖簾男は僕を狙って幾重もの刺突を繰り出し、それを僕が回避していく。


「流れを支配するのは王たる我であろう?」


 ノリノリで攻め立てていた暖簾男のレイピアの連打の流れをたった一振りで切り裂いてみせた僕はそのまま攻め手としての立場を相手から強奪する。

 そして、僕は剣でもって相手の退路を断ち、相手の手番を奪い、相手の出来ることを減らしていく。

 

「……く、そがぁ」


「ふっ」


 完全に暖簾男の剣の振り、体の動かし方を自分の手の平で転がせるまでに追い詰めた僕は笑みを浮かべながら剣を握る手に力を込める。


「ぁあっ!?」


 僕は相手のレイピアを手にある剣で強引に叩き斬り、そのまま蹴りで再度暖簾男を吹き飛ばしてやる。


「はっはっは!興が乗ったぞ!凡夫、喜べ。頂点を見せてやる」


 相手は完全に殺意を持った一般通過盗賊。

 別に殺してしまっても構わないよな。


「すぅ」


 僕は剣を掲げると共に剣へと膨大な魔力を込めていく。

 可視化された魔力の渦が僕の剣の周りで踊り、そのまま空間全体を揺らしていく。


「ば、馬鹿な……こ、こんな……こんな魔力は」


 震える空間へと同調するように体を震わせ始める暖簾男。


「魔剣エクスカリバー」

 

 そんな男に向けて僕は剣を振り下ろすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る