呪い
地下に囚われの身となっていたリーナと出会ってから早いことでもう一週間も経過していた。
「ねぇ、リーナ」
僕は自分の隣にぴったりとくっついているリーナへと疑問の声を投げかける。
「何かしら?」
「呪いについて、聞きたくない?」
「……呪いについて?」
僕の言葉にリーナは少しだけ眉を顰めながら疑問の声を上げる。
「……うん、そうだよ」
一週間、彼女と触れあってみてリーナの中で呪いがどのように作用しているのかをある程度把握出来るようになっていた。
多分ではあるけど、今の僕なら彼女の呪いを消すことだって出来るだろう。
「……何?」
「……」
このまま、彼女かけられた呪いを解いてあげてもいいけど……どうせなら、それっぽい雰囲気の元で呪いから解放してあげたいよね。
せっかくの呪いからの解放なのだし。
それに、そっちの方が面白いと思う。
「昔々、あるところに」
そこまで思考を回した僕は特に意味もなくリーナの隣で言葉を語り始める。
「世界に覇を唱えていた一柱の存在がおりました。ですが、盛者必衰の理。世界は永久の支配を望みませんでした。王は悪辣なるものたちの手によって玉座を追われ、そのまま悪辣なる者が玉座へと席についた」
僕は自分の隣に座っているリーナに対して、適当に作り上げたそれっぽい過去を語っていく。
「い、いきなり何なの?」
「さて、問おう。エステリーナ」
リーナの隣に座っていた僕は立ち上がり、彼女を上から見下ろすような形で視線を送る。
「悪辣なる者によって追い出さる前の王。本来あるべき王がその地を追われた後、彼に使えた英傑たちはどうなってであろうか?」
「どうなったか……悪辣なる者によって追い出された王に仕えていた部下たち。つまり、敗者がどうなった、か。それは、決して良い扱いはされなかったでしょうね」
「それこそが君の呪いの正体だとも」
満点の回答をしてくれたリーナに僕は頷きながら続きの言葉を口にする。
「……えっ?」
「君は王の英傑たちが末裔。本来であれば王より与えられる恩寵であったものが悪辣なる者の手によって歪められたのが君を蝕む呪いの正体だとも」
「……これ、が?」
「さて、エステリーナよ。再度の疑問だ」
驚愕するリーナへと僕は再び疑問の言葉を投げかける
「覚悟はあるか?悪辣なる者は今でもこの世界の頂点に輝いている。呪いが解かれし時。それはかつての王の傘下としての力を取り戻すことと同義となり、悪辣なる者を敵に回すことと同義となるのだ。エステリーナには世界を敵に回る覚悟があるか?」
「……貴方は、生涯に渡ってここに毎日来てくれる?」
「……我にも宿命がある」
いきなり話の流れをぶった切って質問を告げたリーナに僕は困惑しながらも素直に答える。
普通に考えて、毎日欠かさずにここへと来るなんて中々できるものじゃないよね。
「受け入れるわ。どれだけの敵が私の前に立ちふさがっても。必ずにそれを乗り越えて、自由を手にしてみせるわ───そして、貴方の隣に」
えっ?なんて?
「……うぅむ」
リーナの最期の方の言葉がイマイチ聞き取れなかった僕は変な唸り声を上げながらも、始めてしまったイベントを最後まで終えるため、言葉を続ける。
「では、与えよう。恩寵を」
いつものスラム服ではなく魔力で作った黒装束を見に纏った僕はそのまま彼女の頭へと手をかざし、呪いを解いていく。
その際にそれっぽい光を出すのも忘れない。
「……魔力が、流れる?」
呪いによって刻まれた黒い痣がなくなったリーナは自分の体の状態を確認しながら驚きの声を漏らす。
彼女を散々と苦しめていた呪いは、別に呪いなんて言う大層なものではなく、ただの練度不足。体内にあった膨大な魔力をうまく制御出来ずに貯め込んでしまい、体の中で毒になってしまっていただけの話である。
なので、ちょちょいと彼女の中にあった魔力を制御し、毒となっていた魔力を排除してやれば一発だ。
「ふっ」
これで呪いの解除は終わった。
後はこのイベントをどう締めるかである。
「覚悟せよ、リーナ。君が世界は、これより始まると共に終わるのだ」
僕がカッコよくセリフを決めてから彼女に背を向け、そのまま立ち去ろうとしたその瞬間。
「「……ッ!?」」
轟音。
凄まじい音と共に僕の背後。
そこの天井が割れて、一つの人影が自分の元へと舞い降りてくる。
「これが、敵ねっ!?」
えっ?なにこいつ。
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