出会い
「迷った」
世界を裏から牛耳る支配者ムーブ。
それを行うために最も良さげな場所を探すためにスラム街を散策し、たまたま見つけた地下水道の中に入ってどんどんへと先に進んでいっていった僕は無事に迷ってしまった。
そういえば、前世でも爺やからあまり知らないところを自由に散策するな、迷子になるぞ、と忠告されていたな。
完全に忘れていた。
「どーしよう」
自分が歩いてきた道もわからなくなってしまった僕は途方に暮れながら地下水道の中を歩き回っていく。
「およぉ?」
そんなことを続けること三十分ほど。
僕は一つの小さな扉を見つける。
「行くか」
僕は迷いなくその扉を開け、匍匐前進の構えとなりながらその小さな扉の先にまで続けている道を進んでいく。
くくく……まさか、前世の時に編み出した高速ミミズ進みがこんなところで役に立つとは。
するすると道を進んでいった僕は松明の光に照らされるだけの石畳の廊下へと出る。
「……向こうか」
廊下の右側に視線を向けると、松明の数が左側より多いのかより明るく輝いている……行くならそっちだな。
「ふっ」
石畳の上を歩く僕は特に意味もなく足音を鳴らしながら進んでいく。
地上から堕ちて地下。
そこに広がる石畳の廊下に響く足音……素晴らしい、なんかカッコイイ。
「……誰か、いるの?」
そんなことを考えながら進んでいると、澄んだ少女の声が聞こえてくると共に一つの牢屋へと突き当たる。
「……」
廊下を進んで突き当たったのは数本の松明に照らされるだけの小さな部屋。
そこには数個樽が置かれている他には鉄格子しかない。
「ねぇ、だ、れかぁ……」
鉄格子の先。
そこには囚われの身となっている一人の少女がいた。
僕が着ている服よりも粗末なぼろ布を拭く服として身に纏い、その足には地面に繋がれた足枷が嵌められている。
足の他にも首や腕にも鎖がつながった枷が嵌められており、完全に囚われの身となっていると言えるだろう。
「む、無視……しない、でぇ?」
そんな少女の見た目としてはかなり綺麗な部類と言えるだろう。
伸び放題となりくすんだ金髪に、暗く濁った青の瞳。体は汚れながらも決してやせ細っているわけではなく、むしろかなり肉付きは良いだろう。こんな中に閉じ込められていても食事はしっかりと与えられているのだろう。
そして、その相貌としては何か黒い痣のようなものが目立つけれども、かなり整っている方であると言えるだろう。
「汝、何を望む」
黒き装束。
魔力で作り出して黒い装束に身を包み、樽の上に腰掛ける僕は鉄格子の先にいる少女へと話しかける。
「……ッ。何を、望む」
「然り」
僕の言葉を反芻する少女に対して、こちらは短く肯定の言葉を返す。
「……人、がぁ」
「……?」
「人が、欲しい……この、暗い場所でずっと、一人は嫌だよぉ」
何を望むか。
そんな僕の疑問に対して、囚われの少女が告げるのは一人は嫌だという切実な願いであった。
「……」
正直に言って、少しばかり拍子抜けの願いだ。
ここから出して、とか。復讐に付き合って、とか。もっとイベントに繋がるような願いを言われるのかと思っていたけど……少女は泣きながら孤独が怖いと告げるだけであった。
かなり拍子抜け。
「良かろう」
だけど、一人は嫌だと泣いている少女を無視するのは流石に酷いよね?
「やぁ、僕はノーラ」
魔力で作り出していた黒装束を捨てて、僕は魔力を使って鉄格子の中へとするりと入ってみせる。
そのまま、鉄格子の中で泣きながら倒れ込んでいる少女の前に座り込んだ僕は自分の名前を告げる。
「君の名前は?」
「えっ……?」
そして、そのまま僕は彼女に名前を聞くのだった。
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