社会に出たらもっと理不尽な事がある

 前回、うちの学校は生徒のメンタルを鍛えるのに重点を置いていた話を書きましたけど、もちろん勉強の方にも力を入れていました。


 では具体的に、どんな勉強をさせていたか。答えは簡単。

 とことん問題集を解かせるです。


 今までさんざん学校の悪いところを書いてきましたけど、このやり方は間違っていないと思います。

 簿記の場合、何度も問題を解いて間違えるたびにやり方を確認してまた挑む。この繰り返しをする事で少しずつミスが少なくなり、力をつけていくことができるのです。

 もちろん、間違えるたびにクラスメイトの前で晒し物にされるのは納得いきませんけど。


 そして勉強スタイル自体はいいのですけど、ちょっと詰め込みすぎというのが生徒の間では不満点としてよく挙げられていました。

 一日に何度も問題を解いて、課題を出されるため家に帰っても机に向かい、休憩する時間がほとんどないスパルタ方法。体力的にも精神的にもかなりきつかったのですが……。

 そんなある日、事件が起きました。


 同級生の一人が、学校帰りに倒れたのです。

 話を聞くと、連日の勉強による無理がたたったらしいとの事。これを聞いたクラスメイト達は。


「ついに倒れる奴が出たか」

「いつかはこうなると思っていたよ」

「どう考えても疲労がたまりすぎだもんな」


 と、納得したような反応をしていました。

 勉強のしすぎで倒れるというのは、決してフィクションの中だけの出来事ではありませんでした。


 そして、この事態は先生の耳にも入ったようで。朝礼の時、先生はこの事に触れました。

 しかしその時言ったのは……。


「〇〇が過労のため倒れたそうだが……お前たちもアイツを見習って、倒れるまで勉強しろ! 頑張ってるなんて言葉は、倒れてから言え!」


 そんな言葉でした。

 どうやらこれは別のクラスでも同じことを言われていたみたいで。倒れるまで勉強させるのが学校の方針なのだとわかってゾッとしました。


 どうやら学校にとっては体調は二の次。とにかく勉強させて試験に合格させることしか頭にないみたいです。


 またある時は、こんな事もありました。

 大事な検定試験まであと1ヵ月くらいになった時、クラスメイトの一人の身内に不幸がありました。

 なんでも、大変お世話になった叔母さんが亡くなったとの事で。その人は葬儀に出るため、2、3、日学校を休むと先生に言いに行ったのですが……。


「お前はそんなことをしてる余裕があるのか? 泰樹は許可しない。そんな所に行ってる暇があったら、問題の一つでも解け」


 これを言われた子は、相当ショックだったようです。

 話を聞いたクラスの皆は、あんな人の皮をかぶった悪魔の言う事なんて聞く必要はない。無視して行って良いと口々に言いました。

 しかし先生は。


「社会に出たらもっと理不尽な事があるんだから、これくらい我慢しろ」


 の一点張り。結局その子は先生の意向を無視して、学校を休んで葬儀に行きました。

 それから先生がその事について何か言ってきたかは生憎わかりませんけど、個人的には先生に屈しなくてよかったと思います。


 そしてどうやら先生……と言うか学校全体で、『休む』という行為を悪い事と捉えている節があったのです。

 その証拠に、後別の先生がこんな事を言っていました。


「いいか。社会に出たら、休みなんてもらえないんだからな。熱が出ても絶対に休むな。親の死に目に会えると思うな。有休を使ったらクビになると思え。働くという事はそういう事だ」


 実際親戚の葬儀に行くのも許可しなかっただけに、冗談で言っているわけじゃなかったのでしょうね。

 有給休暇を使わせてくれない会社は現実にありますけど、だからと言ってこの教えが正しいとは思えません。




 このエッセイを書くにあたって、専門学校生活を振り返ってみて改めて思います。

 えらい学校に入ってしまったと。







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