第9話
オーロラ姫が帰った後(貴美子ちゃんは正樹にお似合いの実に素直で愛らしい子で、貧血のせいで今回の騒動を起こしてしまった事を反省して、レバーとほうれん草をもりもり食べていると言う話にも好感度が増し増しだった )、俺は話のついでを装って、正樹にばあちゃんの写真があったら見せてくれと頼んだ。
「最後に会えたのは、去年の正月なんだ」
そう言って見せてくれた、アルバムに挟まれていた一枚の家族写真には、
「これがばあちゃん」
丸々としたふくよかな老女が、正樹をはじめとした孫なのだろうか、若者達に囲まれて、幸せそうに微笑んでいた。
ピッチピチの胸の開いた真っ赤なドレスを着こなしていた、あのこたつ女とは想像もつかない姿には笑ったが、肉に埋もれながらもシュッと見える切れ長の目には、確かに面影が感じられた。
「若い頃は、ずいぶんと苦労をしたらしいよ。じいちゃんが早くに死んじゃったから昼も夜も働いて、俺の親父や兄妹三人をちゃんと大学まで行かせてくれたんだって」
「そいつはすげぇな」
なるほど。あれは、夜に働くばあちゃんの若かりし頃の姿だったのか。
それにしてもなぜ、あの姿でばあちゃんは正樹の元に現れたのだろう。
自分が一番美しかった時期だと思っていたからか?
それとも“視える”俺の好みに合わせてくれたのか?
どちらにしろ、
「イイ女だったんだろうな」
お世辞じゃなく、自然とそんな言葉が出た。
「ええ? ばあちゃんが? どうかなぁ? 立派な人だったとは思うけれど」
笑う正樹に教えてやりたかった。
飛び切りのイイ女だったと。
そして今でもお前を見守ってくれていると。
が、出会う女がどいつもこいつも正樹にばかり夢中になるのも癪だったし、黙っている事にした。
このくらいの意地悪を正樹にしておけば、また冬になったら「孫をイジメないで」なんて言って、こたつ女が現れるかもしれないし。
「なあ」
「なに?」
「ばあちゃんちから、クーラーとか冷蔵庫とかは貰ってこなかったのかよ」
「ん? ああ、冷蔵庫は従兄弟が引き取って行ったよ」
「マジか」
冷蔵庫女なら、一年中会えたじゃねぇかよ。
不思議そうな顔をしている正樹を横目で見ながら、俺は次のこたつの季節まであと何ヶ月だろうかと指を折って数えていた。
【おわり】
視えちゃう俺の多忙な日常 MZA @mza127
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