第7話
貧血によるめまいで線路にダイブした彼女と(プリンセス・オーロラと勝手に命名。ホームに横たえられた姿さえも、気品に満ちた可憐な美女だったゆえ)、俺に背負い投げを食らいながらも器用に受け身を取った正樹は奇跡的にも無傷だったのに、勢い余って後頭部を強打した俺は、急停車した電車内の乗客にも怪我人は出ず、全て事なきを得ていたにもかかわらず、一切記憶にないのだが、
「スパイダーマンを呼べ! 電車を止められるのはアイツしかいない!」
などと叫び続けたらしく、頭がおかしくなったのかと病院に運び込まれ検査漬けの日々を送るハメになった。
酒もタバコもお預けで、食っちゃ寝ての生活を過ごし、すっかり健康体になって晴れて病院から無罪放免になった俺の為に、正樹が退院祝いの宴を開いてくれる事になった。
久しぶりに訪れた正樹の部屋では、例のこたつが片付けられていた。
「もう暖かくなったしね。この方が部屋も広く使えるだろ?」
ベランダに、見覚えのあるこたつ布団が干されて陽の光を浴びている。
「だな」
こたつ女も、日干しされているのだろうか。幽霊って蒸発したりするものなのか?
そんな、取り留めもない事を考える。
「あのさ」
正樹が何やらもじもじと、言いにくそうにしている。
「なんだよ」
「実は、紹介したい子がいてさ。いや厳密に言うと、お前ももう面識がある子なんだけど」
「はあぁぁ?!」
たまげた事に、俺が若い看護婦をくどいたのをチクられて鬼婆みたいな看護婦長に叱られている間に、正樹とプリンセス・オーロラはちゃっかりデキていた。
あの日、連絡先を交換した二人はメールで語り合い、意気投合し、春の訪れとともに恋の花も咲かせていやがった。
「改めて、お前にもちゃんと御礼がしたいって言っててさ。今日、ここに呼んであるんだ」
「プリンセス・オーロラを?」
「誰だよそれ」
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