第3話

 ひとり暮らしをしていた正樹のばあちゃんが、先月亡くなった。家族が後片付けをする為にばあちゃんの自宅を訪れ、そこで正樹はばあちゃんが使っていた「こたつ」を、迎える冬に向けて形見分けとして貰ってきたのだという。

 部屋に設置し、大好きだったばあちゃんの匂いを懐かしみながらこたつに足を入れると、

 さわっ

 ”なにか”が足に触れた。

 一体なにが? と、こたつ布団をめくるが、そこにはヒーターが放つオレンジ色の淡い光が点っているだけである。

 気のせいか、と再びこたつに足を入れしばらくすると

 さわわっ

 また、何かが触れた。けれど、こたつの中に変化は無い。

 そんな事象が度々続いた。“それ“は時折、正樹の脚に触れてくる。こたつ布団に変な虫でも湧いているのかと心配したが、脚に噛み跡などの異状はない。

 そこで正樹は思い出した。祖母が可愛がっていた一匹の猫のことを。

 祖母は長い間、拾ってきた猫と暮らしていた。その猫が、祖母より先に天国へと旅立ったのは、祖母が亡くなる半年ほど前だと聞いていた。気落ちした祖母は段々と元気がなくなり、風邪をこじらせ肺炎に罹り、まるで猫のあとを追うように逝ってしまった。

 こたつの中にいるのは、恐らくその猫なのではないだろうか。

 だとしたら、祖母ももうあの世にいるんだよ、向こうでまた一緒に暮らしなよと、教えてあげたいものだ。


 心優しい正樹はそんなことを言った。

「それなら正しく俺の出番だな。女と子どもと動物は、俺に任せとけって」

 暖房器具のない極寒極狭四畳半の自分の部屋に帰るのは耐え難く、九割ほど盛ってみると、

「そうなの? じゃあ来てよ。ぜひ」

 あまりにも素直に正樹が言うもんだから、さすがに心が痛んで、差し入れに発泡酒ではなくてビールを購入した俺を褒めて欲しい。

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