推し

「こっちこいっつ!」


「えっ……なんで?」


 ペークシスへと子作りを頼むのも諦めた僕は、急にその彼女自身に腕を掴まれて部屋の端っこにまで連れ込まれる。

 恐らくは応接室の中央にいるノービアたんとレイシアに声を聞かせないための処置であろう。

 一応、念のために魔力の壁を作って防音しておこう。


「わ、私への子供作ろう発言しているけど……聖女様はどうなるんだよっ!?」


「何を言っているの?」

 

 僕は何故か鬼気迫る表情で告げるペークシスの言葉を鼻で笑い飛ばす。


「いや、ノービアたんへの気持ちは恋とかじゃないから……いいよねぇ。成長して更に可愛くなった。ふへへへぇ」


 十二歳となったノービアたんは一段と可愛くなっていた。

 まさに天使。女神。生きる希望。

 ふへぇぇぇぇぇぇぇ、素晴らしい、実に素晴らしい……かわぇえよぉ。


「だ、だらしない笑顔……っ」


 それは仕方ない。

 リアルに生きている推しを眺めずに笑顔を浮かべずにいることなど出来ない。


「それで話を戻すけど、愛人云々でノービアたんは嫌だよ。あくまで推しだもの。本当は認知だってしてほしくないのに」


 推しから認知されるとかオタクの風上にもおけない。


「その推しって何なのっ!?神への恩寵なんて一番うれしいものでしょ!?それって信仰心じゃなかったのっ!?」


「し、信仰心なんていう胡散臭いものと一緒にしないでほしい」


「舐めているのっ!?私はちょっとだけやんちゃしているけど、一応教会に仕える信徒だっての!」


「それはごめん……でも、僕のノービアたんへとの気持ちは信仰心じゃないから。あくまで推しとしての気持ち。ペークシス。僕はね?常にノービアたんを見守っている壁になりたいんだ」


「何なのっ!?それ、絶妙に気色悪いわねっ!?」


「憤慨」


 この僕の気持ち……日本に生きる同志諸君であれば理解もしてくれるだろう。

 推しとは近づかずに、傍からそっと見守るのが一番美しいのだ。


「……子作り、子作りかぁ。なんで、私なんだ?」


 そんなことを考えている中で、ペークシスが複雑そうな表情と共に自分への疑問を投げかけてくる。


「自分の後を継ぐかもということを考えると、メイドに手を出すわけにもいかないし、初対面も嫌だからだよ。初めてだし。諸々の条件を考えると、個人的にはペークシスが一番ベストなんだよ。ペークシスなら正教の重役ということで元平民であっても家格は良いだろう?」


「私のいも……うとは今、行方不明か」


「そうだね。それに、レイシアは妹のようなものだから、手を出すなんて考えられないな」


「……いやっ!?貴方の方が年下じゃないっ!?」


「……そういえばそうだった」


 つい、前世ぶんの年齢も考えてしまうから忘れてしまいがちだけど、そういえばレイシアは僕よりも年上だったね。

 

「なんで忘れているんだよ……」


 そんな僕に対して、ペークシスは呆れながら口を開くのだった。

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