ペークシスの苦難

 皇太子成人記念式典から早いことでもう一年。

 ゼーアが当主としての仕事にも慣れ、多くの物事が順調に進んでいっている中。


「お姉ちゃんなんて大っ嫌いっ!!!」


「なんでぇ!?」


 一年ぶりに会いに来た妹から暴言を吐かれたペークシスは驚愕の声を上げながら崩れ落ちる。

 久しぶりの挨拶後のこれだ。

 ダメージは実に甚大であった。


「だーきらい!!!」


「な、な、なんでぇ!?や、やはり……あの子にレイシアをま、任せたのが」


 何故、レイシアがこんな暴言を吐くようになってしまったのか……やはり教育をゼーアに任せたのが悪かったのか。

 そんな思考を回した彼女は。


「だって!ゼーア様が考える愛人最有力候補がお姉ちゃんなんだもん!!!」


「へっ……?」


 続くレイシアの言葉に対して、呆気に取られたような声を漏らす。


「わ、私をっ!?ぶ、武力に一筋だったこんな可愛げのない私をか!?」


 そして、そのままペークシスは頬を真っ赤に染め上げながら驚愕の声を上げる。


「そう!お姉ちゃんを!一年前!!私を応援してくれるって言葉は嘘だったの!?」


 そんな風な反応を見せるペークシスへとレイシアが食ってかかっていく。


「いや、今でもその現実は受け入れ難いが……そ、それでもだ!!!私がゼーアの愛人に!なんて話は聞いたことがない!何かの冗談では無いのか?」


「う、嘘じゃないもん!ずっーと!ずっと言われ続けているだもん!!!もう嫌だァ!お姉ちゃんの顔も見たくない!」


「レイシアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!?」


 想定外の非難にもうペークシスは情けない声を上げることしか出来ない。


「そ、それじゃあ、お姉ちゃんが今からゼーアと話して、愛人になることはできないってきっぱり断ってくるね?」


「ゼーアにはもう近づかないでェ!会って欲しくもない!どうせ、お姉ちゃんは押され弱いから最終的に頷いちゃうもん!」


「お姉ちゃんにどうしろっと!?後、姉への信頼ぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!」


 ペークシスの悲鳴がゼーアの邸宅で響き渡るのだった。


 ■■■■■


「貴方がゼーア様の元に訪れている間。こちらの方ですべての盗聴させてもらっていました」


「……はい」


「レイシアなどという雌狐は一旦置いておきましょう。問題は貴方を愛人にしよう、どうのという話です」


「……はい」


「何か申し開きはありますか?いえ、ないですよね?主がずっと恋焦がれている相手を、貴方は誰よりも知っていますものね?」


「……はい」


「それに、貴方。何だかんだで愛人にしたいなどと言われて喜びましたね?私にもようやく春が来るのかと」


「……はい……んっ?いえっ!?」


「認めましたね?」


「違うですっ!?本当に違うのですっ!聖女様ァァァァァァアアアアアアアアア!」


 ペークシスの前途は多難であった。

 既に彼女の胃はボロボロである。

 果たして……ペークシスに救いの手が差し出されることはあるのだろうか?

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