狂愛

 王都に存在していた教会。

 そこが何者かの襲撃を受けて炎上した。

 しかも、その下手人がこれほどまでに大規模な破壊行動をしておきながら何の手がかりも残していないということだ。

 現場には精々、正教に歯向かうプロテスタントが起こした、という薄い可能性を考え始めるレベルの手がかりしか残されていないのだ。

 ここまでの大規模攻撃で何の手がかりも残さない……想像を超える力を持った組織による犯行であると断定した教会はすぐさま聖女に対して、正教の総本山があるリスタ教国への帰還命令が出ていた。

 

「ねぇ、ペークシス」


 聖女の乗るリスタ教国への帰りの馬車で。

 ノービアは唯一、自分と同じ馬車に乗車しているメイドであるペークシスへと声をかける。


「なんでしょうか?聖女様」


「妹さんの病気はゼーア様にしっかりと治してもらいましたか?」


「……ッ!?」


 自然な口ぶりと共に告げられるノービアの言葉にペークシスは


「そんなに驚かなくていいですよ。わかっていますから。貴方がずっと妹の為に戦っていたことを、当然知っています」


「何の、話かわからないのですが」


「誤魔化す必要はありませんよ?ゼーア様とペークシスの会話は盗み聞きさせてもらいましたので。すべてわかっています」


「……ッ」


 あれを、聞かれていた。

 その事実にペークシスは冷や汗を垂らしながら息を呑む。


「あぁ、そういえばゼーア様がおっしゃっていた裏切りで傷つく云々に関してはあまり気にしなくていいですよ。貴方があまり私のことを好意的に捉えていなかったことも知っていますので……ずっと、そうでしたから。私は所詮大人方にとっては道具にすぎないでしょう」


「……」


「ですが、ここだけははっきりさせてもらいます」


 息を呑み、どう動くべきか悩んでいるペークシスに対して、ノービアは言葉を続ける。


「ゼーア様は私のモノです」


 ノービアから絶対の意思を持ってはっきりと告げられる言葉。


「ずっと待ち望んでいた希望であり、自分の願いに希望たるゼーア様に憧れてしまうのは良いでしょう。ですが、ゼーア様は私のモノです。そうでしょう?あれだけ、ゼーア様は私のことを愛しておられるのですから」


 ペークシスは知っていると思っていた、赤ん坊のころから知っているノービアという女を。

 だが、そんなものはとんだ思い違いであった。


「……ッ」


 ゼーアについて語るノービアの瞳は。

 まるで、ノービアについて語るゼーアの、狂信者としてのそれとそっくりであった。


「はぁー、自分が彼に手を出すことはないので安心してくれていいですよ」


 誰かが、裏切りを知ったら悲しむだよ、とんでもない怪物じゃないか……なんで私が狂った男女の間に挟まれなきゃいけないんだ。

 ペークシスは辟易としたものを抱えながら、言葉を漏らすのだった。

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