狂信
レイシアを御姫様抱っこで抱えている僕は王都にある百年以上までに作られた今では誰も使っていない古びた下水道の中を進んでいく。
「しっかりと偽装工作はしてきたね?」
その最中で、僕は自分と共にある黒ずくめの一団の一人へと声をかける。
「えぇ、しっかりとプロテスト共の犯行であるように見せかけておきました。元より我らはこの五年間で大きく影響力を低下させていますから。我らの犯行と思う者は誰もいないでしょう」
僕から声をかけられた黒ずくめの一団の人が答える。
「なら良い。お疲れ様」
「ハッ」
「にしても、こうして我らが再びアンノウン様と……アウトーレ侯爵閣下と職務を共に出来るとは思いませんでしてあ」
感嘆に必要な話を終えた後、黒ずくめの一団の一人がしみじみとした表情で再び口を開く。
「必要だった。ただそれだけの話だよ」
アウトーレ侯爵家。
表向きは王家に最も忠実な侯爵家であり、王家の懐刀として敏腕を振るう由緒正しき名家。
だが、その裏ではとある巨大な犯罪組織を統率していた正に悪役貴族である。
両親が不運な事故でなくなり、当主になり得る人物が僕一人だけになってからというもの。
家臣団たちの手によって分離政策が行われ、僕が五歳になる頃にはもうほとんどアウトーレ侯爵家と犯罪組織の縁が切れていた中で。
僕は家臣団には何も言わず、ひそかに犯罪組織との繋がりを復活させていた。
「でも、僕は両親とは違って悪いことは好きじゃないからね……君たちの横暴を許すつもりはないからね?」
そんな僕ではあるが、あくまで自分の目的はノービアたんを助けること。
彼らの繋がりを再度持ったのはすべて、推しを助けるための手札を増やすためであり、彼らの無法を許すためというわけではない。
「わ、わかってますって。下手に暴れないですし、そもそもそういう血の気の多い連中は五年の間に駆逐されてますから。我ら全員、アウトーレ侯爵家に忠誠を誓う剣ですよ。それには、間違いありません」
「なら良い。君たちには期待しているから」
「ハッ……ちなみにですが、それに、自分たちとしては犯罪組織の一員というより、祖国をより良い強き国にするため、黒きことにも手を染める必要悪だって思っているんですから。自分らは暴走したりなんてしませんよ」
「そうだったね。すまなかった」
僕はちょっとだけ不満そうに告げる黒ずくめの一団の一人の方に視線を向け、小さく笑みを浮かべた後に謝罪の言葉を口にする。
「ふぅー」
そして、その後に視線を前へと戻す。
「……ぁあ」
もはや引き戻れない。
今日、僕は教会に弓を引き、多くの人の人生を終わらせた。
それでも、僕が止まることはないだろう。
……。
………………。
……………………………。
「……必ずや、君を」
主人公であっても救えなかった悲劇のヒロイン。
なれば、僕が主人公の立場ではなく、生まれた通りの悪役貴族として。
必ずやあの子を救って見せよう。
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