回復
治療開始からしばらく。
「終わった」
レイシアの体を作りかえるくらいの勢いで強引に狂犬病を追い払い、そのまま彼女の弱った体も一緒に回復してやった。
これで完全にレイシアは回復しただろう。
「んはっ……」
治療中、ずっと首を絞められる形になっていたレイシアは顔を赤く染めながら浅くなっていた呼吸を慌てて深いものへと変えていく。
「……何か、複雑だわ」
口から涎を垂らしながら息を荒げ、頬を真っ赤に染める艶やかな姿を晒している自分の妹を見ながらペークシスは複雑そうな表情を浮かべる。
「もうちょっと、別のやり方はなかったの?」
そして、そのまま僕への疑問の声を投げかけてくる。
「首が一番簡単に相手の体を掌握しやすいんだよ」
だが、これも仕方ない話なのだ。
首絞めは可哀想だけど……本当にこれが一番効率が良い上に確実なのだ。色々な神経が通っていて、肉も厚くないしね。
「……ほら、そんなことより妹と会話せぇ」
僕はレイシアの上から退きながら、声をかける。
「既にもう完治しているから色々話してきな」
僕はペークシスの後ろへと下がり、そのまま二人が会話出来るようにしてやる。
「……そ、そうね。どう、かしら?レイシア」
「えっ?あっ……うん。……えっ!?凄い。私の身体が私の身体じゃないみたい!めちゃくちゃ元気!」
「……ッ。そう、か……そうか、そうか。そうか……、本当に良かった」
僕はペークシスとレイシアが感動のやり取りをしている横で周りの音に耳を澄ませる。
「……そろそろか」
この部屋はかなりしっかりと防音がされており、あまり外の音は聞こえない。
それでもかなり激しいであろう戦闘音が外で響いているのを微かにここからでも聞くことができる。
「よっと」
僕は素早くこの部屋の扉を開け、そのまま流れるように見張りとして扉の前に立っていた二人の戦士に暇を上げる暇も与えずに息の根を止める。
「アンノウン様っ!」
僕がちょうど二人の見張りを殺したと同時に、こちらのことを『アンノウン』と呼ぶ数人の黒ずくめの男たちが近づいてくる。
「戦況は?」
「既に制圧致しました。ありとあらゆる金品と非戦闘員を確保致しました」
「よろしい。こちらも撤退する」
手早く話を終えた僕は再び部屋の中に戻り、突然の出来事で中で震えていたレイシアの方に向かっていく。
「レイシア。悪いけど、ちょっと気絶しててもらうよ」
「……えっ?」
そんなレイシアを手刀で痛みもなく気絶させ、そのまま彼女をお姫様抱っこで丁寧に抱きかかえる。
この間、ペークシスは何も言わない。
「さて、僕はこの子と共に帰るよ……いいかい?これはただの人質であるということを忘れないように」
「えぇ……わかっているわ。すぐに戻ってくるから、ちゃんと守ってなさいよ。もし、その子に何かあったら……許さないから」
「わかっているよ」
僕はペークシスの言葉に頷くと共に、燃え上がる王都の正教の教会から黒ずくめの一団と共に脱出するのだった。
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