ノービア

 この場における最低年齢は僕と彼女の八歳。

 

「すみません、いきなりは驚かせてしまいましたか?どうにも、あまり楽しませていないように見えまして」


「えっ……ぁ、その」

 

 いきなり話しかけられて困惑しているであろうノービアたんが動揺の声を漏らし始める。


「実はかく言う私もでして。周りにいる大人たちが飲んでいるのはお酒ばかり。年齢が訳でお酒を飲むことのできない私には窮屈なばかりなのです」


 困惑しているノービアたんもかわぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

 可哀想は可愛い。

 絶対に行ってはならない方にも彼女の可愛さを前に思わず転がり落ちてしまいそうになるのを我慢しながら、僕は言葉を続ける。


「おっと、聖女様のあまりの可愛さを前に話したい気持ちが先行して自己紹介を忘れておりました。私の名はゼーア・アウトーレ。侯爵家の当主をさせていただいております」


「あっ、はい。私は正教に属する聖女が一人。ノービア・ライスカーナと申します……当主、ですか?その年齢でっ!?」 

 

 僕の言葉を聞いたノービアたんは歓声を上げる。


「えぇ、そうなのですよ」


 僕の自己紹介に興味を持ってもらった!

 それに小躍りしたい気分になりながらも、僕は冷静さは辛うじて保ちながら彼女の言葉に頷く。


「若輩の身ながら当主という立場に置かせていただいておりまして。いつも苦難の連続で困り果てておりますよ」


「いえ、それでも立派に職務を務めあげているのでしょうから。本当に凄いことだと思います……っ!」


「ははは、聖女様にそう言ってもらえるとは、胸がすくような思いにございます」


 ふへへ、今。

 僕はノービアたんに褒められているよぉ。転生してよかったぁ。


「それで……」


 僕は今にも蕩けそうになりながらノービアたんと言葉を交わしていく。


「「「……っ」」」


 そんな中で、最も警戒しなければならないのは聖女たちの周りに集まって自然と壁を形成していた宗教関連者だ。

 彼らの目的はノービアたん周りの人間にあまり多くの接触を持たれないようにすること。

 ノービアたんはその特殊な生まれ並びに力によって、正教内でも特別扱いされており、あまり悪辣にして人を騙すの趣味とする貴族たちに近づけたくはないのだろう。

 正教の有名人として我が国を訪れ、顔を見せに来てアピールする。

 それだけで来た意味があり、既にもうノービアたんはここに来た理由のほとんどを達成した後だろう。


「なるほど。そうなんですね」

 

 そんなわけであるため、ノービアたんの周りにいる宗教関連者は出来るだけ貴族を近づけさせたくはない。

 だが、僕は八歳なので彼女と話すことが許されていた。

 下手に警戒しているよりも、同年代の子供同士で仲睦まじく会話させていた方が良いとの判断だろう。

 ふへへ。その判断が理由で僕は推しと会話出来ています。

 ごっつあんです。


「聖女様も大変なんですね」


「……えぇ、ですが。これも市井の方々の為ですから。これくらいで悲鳴を上げてはいられないですよ」


「それは素晴らしい心構えですね。尊敬してしまいます」


 僕がノービアたんと楽しく会話を繰り返し、友好度を高めていく中で。

 パーティー会場の照明が少しばかり落ち、クラシックな音楽が流れ始める。


「な、何でしょう?」


 突然の変調を前にノービアたんは疑問の声を上げる。


「あら?パーティーは初めてですか?」


「えっ、あっ、はい」


「ふふっ、そうですか。パーティーの醍醐味はダンスなのですよ。照明が落ち、音楽が流れ始めたのが始まりの合図です」


「あら?そうなのですか」


 自分の説明に頷くノービア譚の前で、僕は片膝をつきながらゆっくりと自分の手を差し出す。


「聖女様。ぜひ、自分と一曲踊ってくださいませんか?」


「……は、はひっ」


 真っ直ぐに彼女のことを見つめながら差し出した僕の手を、ノービアたんはおっかなびっくりでありながらも取ってくれるのだった。

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