王都

 アウトーレ侯爵領を飛びだして王都。

 僕は豪華な馬車に乗せられ、多くの騎士たちに守られながらアウトーレ侯爵家当主としてこの王都へとやってきていた。


「それではゼーア様。王都でゼーア様が行わなければならないことのおさらいをしていきます」


「うん。よろしく」


 僕は自分の前に座っているメイドさんの言葉に頷く。


「まずは皇太子様成人記念式典の前に行われるパーティーへの出席。皇太子様成人記念式典への参加。当主として王都に滞在している大商人や有力な傭兵団との顔合わせ。これら三つが主な仕事となります」


「なるほどね」


 この三つの出来事の中で自分の推しであるノービアたんに会えるのは前の二つの仕事である。


「ふふっ」


 リアルで推しであるノービアたちに会えるのか。

 ふへへへ、なんとなんと、なんと楽しみなことだろうか。

 まさかゲームの世界の推しにリアルで会える日が来るとは思わなかった。もう、楽しみすぎてワクワクしちゃう。

 昨日から眠れなかった。楽しみすぎて。

 完全に行事を前にする小学生みたいなムーブをしてしまった。


「どうして、この場で……笑顔を?」


「えっ?あっ、うん。僕が当主として初めて行う仕事として、随分と相応しい職務が来たなと思ってね。これくらいの大仕事であればあるほど燃えるのだよ」


 思わず漏らしてしまった笑みに対してきょとんした表情で疑問の声を浮かべるメイドさんに対して僕は何とも不敵になってしまった言い訳を返す。


「ッ!それはそれは、実に、頼もしいばかりにございます」


 そんな僕の言葉を受け、メイドさんは驚愕の表情を浮かべながらこちらに尊敬のまなざしを向けてくる。

 まぁ、八歳児が燃えるな……なんて言っていたら只者じゃないとなるよね。

 それにしても、ゲームでもゼーアはこんな過酷な人生を送ったのだろうか?

 八歳児、当主としての初めての仕事がここまで重たいものだと普通は潰れてしまうのではないだろうか。


「すぐに皇太子様成人記念式典の前に行われるパーティーは行われるのだよね?」


 過去のゼーアについて考えていた僕は自分の意識を切り替えてメイドさんへと疑問の声を上げる。


「……はい。天候の影響によって、少々移動が予定より遅れていることもあって王都についてすぐのパーティーとなってしまいました。この後、アウトーレ侯爵家が所有しておられる屋敷に一旦寄り、大急ぎて着替えを行ってからすぐにパーティーとなってしまいます」


「別に良いよ。それくらいの方がワクワクするし、やり甲斐もあるからね」

 

 僕はさっきした強気発言と矛盾がないように言葉を話していく。


「流石にございます……っとと。どうやら到着したようです」


 王都に入ってからもしばらく進んだ馬車がついにその動きを止める。


「うし、それじゃあ降りようか」


「はい。足元にお気をつけください」


 僕は自分の馬車を運転してくれていた御者が開けてくれた扉から外へと出るのだった。

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