当主
剣を学び、魔法を学ぶ。
多くのことを学び、成長していく、そんな満ち足りた日々を送っていた僕はある日、メイドさんから驚愕の言葉を聞かされていた。
「受け入れがたい、ということは承知しております。ですが、確かに幼君様のご両親は既に亡くなっておられます。それ故に、アウトーレ侯爵家の現当主はゼーア様にございます」
「……はっ?」
僕はメイドさんの言葉に固まる。
あまりにも突然すぎる言葉。
いつも通り晩飯を食べるための席に座ったと共に、ごく自然に当たり前かのように話し始めたメイドさんの言葉に僕はただただ困惑して固まる。
「もう、既に幼君様と呼ぶ頃ではなくなった、と勝手にこちら側で判断させてもらいながらの発言となることをお許しください」
「ん、んん……そ、そうかぁ」
今までは良く考えていなかったけど……た、確か、幼君は幼い君主を呼ぶ際に使われる呼称、だったっけ?今まではあまり気にしたことはなかったが。
いや、だとしてもよ。
「はや、すぎないかな?幼君呼びの卒業は」
僕はまだ八歳ぞ。
呼ぶ頃ではなくなったとはとてもじゃないが言えない年齢だと思う。
「摂政として働けるお方がいないのです。アウトーレ侯爵家には」
そんな僕の言葉に答えるのは苦難に満ちたメイドさんの声。
「侯爵家が?」
侯爵家の当主になれる者がたった一人、それも未だ精通も迎えていない餓鬼が一人だけだとか普通にお家存続レベルの大事だろう。
それに、僕は未だに婚約者もいない身。かなり不味いのではなかろうか?
世継ぎとかどうするのだろうか。
「……一応、親戚筋の方はおられるのですが、あまり頼れる方ではなくてですね」
「な、なるほどぉ」
随分と複雑な家庭環境なようで。
両親は死去。親戚筋は頼れず摂政の確立も不可。
「つまり、これからの僕は八歳児でありながら侯爵家の確固たる権限を持った独立する当主であるというわけか」
「私どもの間でも最大限バックアップさせてもらいます。ですから、どうか我々の当主として君臨なさってくださいませ」
納得が言ったように頷く僕に対して、メイドさんは深々と頭を下げながらお願いの言葉を口にする。
「それが、我が家に必要なことだと言うなら受け入れるよ」
最初は面食らったけど、別に悪いことは何もないしね。
権力を貰えるというのであれば貰おう。
少しでも、推しであるノービアたんの生存確率を上げられるのであらばそれよりも嬉しいことはない。
「それで?わざわざ僕に対して、こんな話をしたということは早速やってもらいたいことがあるの?」
「え、えぇ……その通りです」
僕の言葉に若干面食らったような表情を浮かべながらメイドさんが頷く。
流石にこれくらいは何となくわかる。
メイドさんの話を聞くに、両親が死んだのもかなり前だろう。
僕は産まれてこの方、両親を見ていない……つまりは、長らく勝手に家臣たちが僕を当主として祀るだけ祀って勝手に政治を行っていたのだろう。
少なくとも三年間。
だが、その三年間の中でどうしても本当の当主が必要となる行事が近々あるのだろう……だから、僕の方へと話を持ってきたと考えるのが妥当だと思う。
「王都に行ってもらいたいのです。皇太子様の成人を記念する式典がございます。王族はもちろん、侯爵家の当主などの多くの貴族が集まる大きな催しとなります」
「ふむふむ」
僕はメイドさんの言葉に頷き、そのないように耳を傾ける。
「また、国外からも多くの方が来賓としてお越しくださるようでして。聖女であられるノービア・ライスカーナ様なども」
「素晴らしい、行こうか」
僕はメイドさんの言葉へと食い気味になりながら答えるのだった。
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