修練

 五歳。

 その年齢に何があったのかはわからないまま僕は更に成長し、八歳となっていた。

 この三年間の僕は五歳までの軟禁生活は一体何だったんだと、ツッコミを入れたくなるくらい、健やかにのびのびと成長してきた。

 色々な知識に触れ、体を動かし、多くの人と関わりながら生活していた。


「よっ、ほっ……せいっ!」


 そんな生活の中で、僕が最も力を入れて行っているのは訓練である。

 僕の目的である推しの不幸な未来を防ぐためにまず、必要なのが力である。

 それを得るため、僕は自分の才能に胡坐をかくことなく日夜邁進を続けていた。


「そろそろ、ギアを上げるねっ!」


 木刀を手に持つ僕は声を張り上げる。


「了解、しましたっ!」


 そんな僕の声に対して、自分の前で同じく木刀を持ってこちらと打ちあっている一人の成人男性が頷く。


「……しっ」


 自分の言葉に相手が了承したのを見て、これまで軽めに動いていた僕は全身に力を入れ、己の体を爆発的に動かしていく。


「ぐっ!?」


 一歩で相手のとの距離を詰め、全身全霊の力でもって木刀を振り下ろし、すぐさま態勢を変えて再度一振り。

 相手はただ僕の攻撃に木刀を合わせることしか出来ない。


「───今」

 

 そんな打ち合いの中で。

 絶妙なタイミングを見つけた僕は木刀を振るい、相手の手にある木刀を弾き飛ばす。

 そして、そのまま更に一歩。

 僕は相手との距離を更に詰め、その首へと自分の木刀を突きつける。


「……参りました」


 手元から得物が離れ、そのまま首元に木刀を突きつけられた相手は両手を上げて降参を口にする。


「ありがとうございました」


「いやぁー、お強くなられましたね。ゼーア様」


 木刀を収める僕に対して、相手はあっけらかんとした笑顔で誉め言葉と口にする。


「いやいや、まだまだこれからだ。僕はもっともっと強くならなければならなきゃいけないからね。この程度じゃまだまだ」


「いやはや、本職である私に勝ってもまだ満足されないとは。随分と果て無き向上心を持ったお方だ」


 今、僕の模擬戦の相手をしてくれていたのは文字通りの本職。

 戦闘を専門の職業とする我が家に仕えてくれている騎士の一人である。

 

「ふふっ、僕は将来、君たちの上に立つ者だよ?これくらい強くなければいけないでしょう」


「本当に凄いお方だ。そこまで楽しいですか?訓練が。いつもしておられますが」


「単純に楽しいんだよね。訓練」


 これは本当だ。

 推しを助けるという目的は大前提として、実際に訓練するのも非常に楽しかった。

 今の僕の身体は才能に満ち溢れているのか、どんどん技術を吸収し、どんどんと成長できるのだ。

 圧倒的な才能のなせる業。

 天才が持つであろう異次元の学習能力に身体能力を手にしてしまった凡人たる僕はこのあまりにも高性能すぎる体に感嘆の連続であり、この体に多くの技術を詰め込むのが半ば快感となってしまっていた。


「素晴らしいことですね。少し、末恐ろしい気もしますが」


 僕の言葉を受け、騎士は畏怖も混ざった声を上げる。


「だが、僕は君たちの頂点であり、仲間だよ?頼もしく思ってくれよ」


「えぇ……本当に頼もしい限りです」


「それじゃあ、僕は今度。魔法について学んでくるからまた後で!」


「はい。それではまた、私どもはいつでもお待ちしております」


 僕は騎士と別れ、今度は魔法について学ぶために足を進めるのだった。

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