五歳

 生まれた時からずっと僕が軟禁されていた部屋。

 そこはベッド以外、何もない殺風景な部屋だったのだが、急にメイドさんが姿見を始めとして机や椅子など、様々なものを運んできてくれたおかげでかなり立派な部屋へと様変わりしていた。

 

「それでは幼君様」


「うん」


 椅子に腰かける僕は自分の前にいるメイドさんの言葉に頷く。


「まずは五歳のお誕生日おめでとうございます」


「えっ?あっ、うん。ありがとう」


 初めて誕生日を祝ってくるメイドさんの言葉に対して、僕は困惑しながらお礼の言葉を口にする……今日が自分の誕生日だったのね。

 まずそこから初耳だったもしれない。


「本日より、幼君様の生活は一変することになります。当主として立派になるための教育から、訓練を行ってもらうことになります。五歳となって魔力もその体に馴染んできたことでしょう。もう付け入られることはないでしょう」


「……お、おぉ?」


 僕はメイドさんが話す言葉の数々に困惑の声を漏らす。

 情報量が多すぎて正直、かなり困ってしまってしまう……どういうことや。魔力に体が馴染んでくるとは。

 それに付け入られるとは。


「今は完全にすべてを理解する必要はございません。詳しいことは後々になって学んでいけばいいわけですから」


 明らかに困惑している僕の様子を見たメイドさんは安心させるような笑顔で言葉を続ける。


「……はぁ」


 僕はメイドさんの言葉に何とも言えない言葉を上げる。


「それでも、産まれたときより聡明であられた幼君様であればあまり心配もいらないと思いますが」


「なる、ほど」


 僕はメイドさんの言葉に頷く。

 色々と困惑出来る要素はある……だが、ゼーアは良家の生まれであり、かなり甘々で育てられていたはずだ。

 色々な疑問を解消するタイミングは焦らずとも必ず訪れるだろう。

 とりあえずはメイドさんの言葉に耳を傾けるのが先決か。


「それでは幼君様。これまでは外出を禁じておりましたが、ここからは自由となります。どうぞ、ここのお部屋から外出なさってください。もう、幼君様がこの部屋に四六時中いる必要はなくなりました」

 

 メイドさんは空きっぱなしになっている部屋の扉の方を指し示しながら笑顔で告げる。


「……なるほど」


 もう、メイドさんが出ていいと言うのなら出て良いのだよね?


「それじゃあ、失礼して」


 僕は座っていた椅子から立ち上がって部屋の扉の方に向かって歩き出す。



『───っ』



 そして、そのまま僕が部屋から一歩出た瞬間。


「……んっ?」


 何処からか声が聞こえたような気がして立ち止まる。


「如何なさいましたか?幼君様」


 いきなり足を止めた僕に対してメイドさんが疑問の声を投げかけてくる。


「いや、何でもないよ」


 気のせいか。

 僕は聞こえたような声を気のせいだと断じ、再び足を動かすのだった。

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